書評


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海勢頭豊(2003)「真振(Mabui)」藤原書店
藤木勇人(1996)「うちな〜妄想見聞録 藤木勇人のラビリンス」沖縄出版
藤木勇人(2004)「ハイサイ!沖縄言葉」双葉社
筑紫哲也・照屋林助(1997)「沖縄がすべて」河出書房新社
照屋林助(2003)「沖縄の神さまから贈られた言葉」晶文社
照屋林助(1998)「てるりん自伝」みすず書房

 戦争と平和を日本で考える時に、もっとも参考になるのが、ウチナーの人々の感覚である。沖縄の方々には敬称をつけたくなるが、知り合いでもないので、ここでは敬称略とさせていただく。海勢頭豊(うみせずゆたか)は、「喜瀬武原(キセンバル)」の作曲者であり、その後演劇などに楽曲を提供した方である。CD「海勢頭豊 名作集(1)」も出ているのでそちらも聞いてみて欲しい。

 書物では本当の祭りの意味(神に対して謙虚な気持ちで祈りをささげる)を取り戻すことが重要という主旨の事を述べておられる。この主張で平和につながるか疑問があるが、それを除けば「真振(Mabui)」藤原書店(2003)はCD付きだし、一読の価値のある書物である。まぶいというのはヤマトでは"魂(たましい)"のことで、照屋林助によれば、魂(たま)げたというのは、魂(たましい)脱げたという所から来ており、子供がたまげたとなると、親が心配して、"まぶーいまぶーい"と唱えて、たましいを戻す儀式をしたという。こういう事で子供は安心して、顔色もよくなるという。こういう暗示は大事だと書いていたが、本当だろうと思う。

 藤木勇人は、りんけんバンドにも在籍した事のある人物である。最近の書物には"うちなーやまとぐち"として、ゴザを中心とした地域で通用する沖縄とヤマトの混ざった現代の沖縄言葉を紹介している「ハイサイ!沖縄言葉」双葉社(2004)がある。つい最近、この書物の内容を収録したCDも出た。「うちな〜妄想見聞録 藤木勇人のラビリンス」沖縄出版(1996)は、自らの演劇人生を振り返った書物で、演劇の内容など書かれていて、とても面白いので、読んで笑っていただきたい。

 筑紫哲也(ちくしてつや)は、名前から想像がつくが九州出身の方である。この本で朝日の沖縄特派員(沖縄返還前に派遣された2名のうち1名)を経験した方だとはじめて知る。これまでテレビ番組「NEWS23」の多事総論などで、唯一のまともな報道を行う人物と思っていたが、沖縄好きと聞き合点がいく。照屋林助(てるやりんすけ:1929年4月4日−2005年3月10日)は、沖縄の漫談ワタブーショーを演じた多芸多才の人である。商才はなく、コザ独立大統領を名乗るなど独特の平和感覚を持つ異彩の人物であり、この方の含蓄あふれる格言には感銘を覚える。

 平和学習を目的とするならば、上記3冊の中では下記の本がいいだろう。

筑紫哲也・照屋林助(1997)「沖縄がすべて」河出書房新社

 照屋林助の生き様に興味があるなら、上記と下記の本を読むのが良い。

照屋林助(1998)「てるりん自伝」みすず書房

 経済学者の渡辺利夫が森田療法の本を書いて賞を取っているが、照屋林助も森田療法は実体験から効くと証言している。照屋林助は、森田療法のすばらしい点として次の3点を指摘している。神経病としてではなく神経「質」として扱ったこと、東洋人には東洋人にあった治療法があると考えた点、照れ屋なら照れ屋を恥じることなく自覚することの重要性を平易に述べていることである。私は神経質になったことはないが、こうなる以前に同様の対策をとっているので、多くは共感できる。

 照屋林助は照屋林山という三線(さんしん)の制作及び奏者である父を持つ。師匠は、医者であり、笑いこそ命の源という考えから、人を笑わせるために尽力した舞天先生(ぶーてんせんせい)であり、その話芸を引き継いだ。息子はりんけんバンドの照屋林賢である。

 また、格言としては、次のようなものがある(ここは正確な引用ではない)。
長く言い伝えられて、その有効性が認めれているから語り継がれているのだろう。

「年寄りの言う事は正しい」
「ウチナーはいつでも独立できる。しかし、今はまずヤマト(日本)に独立してもらわないとウチナーが困ってしまう」

 いまの所、沖縄からヤマトで活躍する人はゴザ出身の方が多いようである。しかし、最近では、宮古島出身の下地勇なども知られるようになった。下地勇は、さだまさしの関白宣言を宮古島方言で歌っており、またこれが何ともいえない味わいのある音楽になっている。興味のある方は天[tin]というアルバムの6曲目にあるので聞いて欲しい。方言が方言のまま需要されるのはとても良いことだと思う。

 方言は面白いが、CDなどはまだ少ない。テレビで放映された柳葉敏郎の秋田弁の早口言葉も録音しとけばよかった後悔している。CDにしてくれないかなぁ。

<2006.9.17記>

Kazari