[良書] Gerd Gigerenzer[著]吉田利子[訳](2003)「数学に弱いあなたの驚くほど危険な生活」早川書房
統計関係の本ではかなり出来の良い本です。日本語の書名は長く、原題とかなり異なります。日本語の副題には「病院や裁判で統計にだまされないために」とありますが、これも本書の主張やニュアンスとは違います。売るために変更したのでしょうけど、かえって誤解を与え、本書の価値を低くしているように思います。英語の原題は、Calculated Risksで、直訳すれば「予測される危険」です。英語の副題は、How to know when numbers deceive youで、こちらも直訳すれば「数字があなたを惑わす場合をどうやって知るか」くらいの意味です。
そしてこの書物の主張は、医療に関する病気のテストは、どのようなものであっても完全なものは存在しないという事と、検査結果を伝える際に、確率(パーセンテージ)ではなく、確率の分布をツリーにして頻度表示することで、かなり誤解を防げるという事です。これらの点は英語の原題と整合的ですが、日本語の主題や副題とはかなりニュアンスが異なります。
本書には他にもいくつか良い点があります。基礎的な死亡要因の統計なども市民に正しく伝えられていない事などです。統計を学んだ方には常識的な事柄も多いですが、それが医療の検定では別の専門用語になっていることを知ることもできます。欲をいえば、医療の専門用語の解説がこれだけ詳しいのだから、統計学の用語もあわせて添えておけば、よりよかったでしょう。例えば、病気にかかっているのにかかっていないと判定される場合と、病気にかかっていないのにかかっていると判定される場合は、両者とも検定の誤りですが、統計用語では、第一種の過誤、第二種の過誤と呼びます。これらの確率がトレードオフになることは解説されているので、ちょっと残念でした。もうひとつ残念な点は、事例が乳がんにかなり偏っていた事です。もう少し、いろいろな事例が挙がっているとより良い本になったでしょう。
参考までに本書で扱っていた事例は、乳がんのマンモグラフィーとその他の検定、Hivウィルスの検定、タバコと肺がん、大腸がんの便潜血検査、DVとDV経験者が配偶者殺しに合う頻度などです。
<2009.10.12記>