[トンデモ本] Robert B.Reich[著]今井章子[訳](2008)「暴走する資本主義」東洋経済新報社
これほど、ひどい内容の経済関係の本は久しぶりに読みました。経済評論家の勝間和代が後ろの方に賛辞を書いているのにも呆れました。もう少し、経済学が分かっている人かと思った。Robert B.Reich という人物は、もともと保護貿易主義者で、関税を高く設定して、海外との競争を無くし、米国の労働者を保護すべきだと主張していた変人の類です。自由貿易主義者からは、まともな人物と見なされていないことも経済界では常識であり、政権に関与したため有名になりましたが、「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」をはじめ、経済学者間では悪評が大勢を占めています。「暴走する資本主義」を読むと、Reich は経済学が無知なだけでなく、統計の見方も、歴史分析も、論理性も欠如した人物であることが分かります。
良いところがまるで見当たらない本ですが、あえて探すとすれば、役に立つ統計データも提示してあることでしょうか。そこから、Reich の主張を導くことは不可能ですし、経済学をまともに理解している人間には、Reich の論理構成も皆目見当がつかないんじゃなかろうかと思います。企業の人格化はおかしい、企業は意志を持てないと、経営学を完璧に否定した奇妙なReich の主張を、東洋経済出版社のような所から出版されると、日本の言論界や出版界も地に落ちていると感ぜざるを得ません。Reich によれば、企業は意志をもたないから、現行の企業に対する法律は間違っており、企業には法的責任がないと主張しています。法学の人が聞いたら、Reich はファシストなんだと思うような暴論です。組織体による犯罪は法律違反じゃないと主張しているも同然ですから。
だいたい組織体が意志決定を行えないという段階で、論理的に正しくありませんが、それが正しければ、組織は意思決定できないことになり、国家の存在意義もなくなるでしょう。Reich に論理性がない証拠にもなってます。他の箇所で、市民は国家に訴えかけて、企業のロビー活動を禁止すべきだと言っているので論理矛盾しています。また、企業は人格がないから無税にすべきであり、そうする事で株式市場が効率的になり、超資本主義に対抗できるとReich は出鱈目な事を主張していますが、その根拠はまったく示されていません。そもそもReich によれば、より競争的になることで、現在の超資本主義が生まれたのだから、ロビー活動の禁止はともかくとして、超資本主義に対抗するために、株式市場の競争促進を求めることは矛盾しています。
あまりに幼稚な内容なので、すべての誤りを指摘する気にもなりません。中・高校生が読んで、論理的欠陥を探す教材以外の用途を思いつかない本です。
<2009.12.13記>