[良書] 木田元(2008)「なにもかも小林秀雄に教わった」文春新書
これまでタイトルと内容がそぐわない場合、批判のひとつとしてきた。その観点から言うと、この本もタイトルと内容がかけ離れている。にもかかわらず、この本は良い。以下、その理由を記そう。
この本で、木田元の読書の歴史を知ることが出来る。簡単な自伝にもなっている。さまざまな哲学者の考え方の紹介もあるし、簡単なハイデッカー入門として読むこともできる。木田元の世代の思想背景を知る資料となるほか、さまざまな思想家の比較が行われていて、とにかく面白い。木田元は日本語の論理構造を熟知した文章の達人であり、とても読みやすい。また、読書暦を披瀝する際に、普通の人は見栄をはって当時からよく分かっていたふりなどをするが、そうした点がないのも立派である。当時はさっぱりよく分からなかった、今更ながら別の人が指摘していた内容を読んで確認したことなど、包み隠さず書かれている。
それからこの本を読むと、ハイデッカーを読み解くにあたって、どういった本を事前に読んでおいたら良さそうか、手掛かりが書かれている。この時代の気鋭の哲学者たちを数多く読み込んでおり、また文学青年だったからこそ、これだけの日本語の達人になったのかと思う。私の拙い書評なんぞよりも、読んで堪能してもらう方がよさそうだ。
<2010.9.19記>