[良書]呉智英(1996)「サルの正義」双葉文庫
呉の本では、他の「ロゴスの名はロゴス」などの方が出来は良いが、甘めに良書に分類しました。最初の正論が良くないです。「死刑を廃止し、仇討ちを復活せよ」というのがタイトルで、日本の場合、進駐軍に急に近代刑法を持ち込まれた印象があるから、あまり歴史性を調べずに、この主張をしたんでしょう。この主張を正論とする背景には、仇討ちする人は、仇討ちの対象となる犯人を決して過たず認識できるという前提が必要になります。また、人殺しが嫌いな人が割を食い、大好きな人が仇討ちしまくる結果になるのも火を見るより明らかです。それから、西洋ではこうした復讐が、原因を作った関係者全員に及ぶような凶行をする者が絶えない、その過程で下手をすると首領同士の戦争状態に発展など日常茶飯事となったことを受けて、国家が刑法を独占するようになるという歴史があります。戦後の民主化をどう見るかは意見が割れても、大きな日本の裁判史について鑑みれば、同じような歴史的な経緯は観察できる。なので、「仇討ちの復活」に関しては愚論です。最初の説だけに、この本の価値を悪くしています。私が上述した論理とほぼ同様の歴史分析から、著者が「学歴社会批判の愚劣」を書いており、この「学歴社会批判の愚劣」の節と同じように死刑を論ずれば、「仇討ちの復活」という愚昧な結論には到達しなかっただろうに、もったいない。
[良書]Noam Chomsky[著]大塚まい[訳](2007)「お節介なアメリカ」ちくま新書
この人の本は、アメリカの開発政策を知る上で重要なのですが、相変わらずタイムリーによくアメリカの官僚や政治家の裏の活動を調べて書いています。途上国の開発現場でよく聞かれるアメリカに対する小言と合致する事柄が多いので、事実はこんな感じであろうと思います。政治的な側面限定なんで、少し物足りない印象もありますが、参考になります。
<2011.9.6記>