書評


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[名著]高橋伸夫(2010)「ダメになる会社」ちくま新書875

 本当にすごいですね。高橋伸夫の書く本は、経済学者がお手本にした方がいい。株式市場に対する洞察には目から鱗が落ちる思いがしました。金融市場についてはかねてから投機的になりすぎている。それは実需以上に金融市場の規模が急速に拡大していることからも明らかですが、その是正方法は投機行為に対する規制以外に思いつきませんでした。現実的には投機と投資の区別が簡単ではないので、私には実務的解決法が見当たらない状態でした。

 この書物では、株について単なる規制とは別の提案を行っているのが斬新です。現代の経済社会現象を研究する研究者から、経営者、ビジネスマン、労働者に至るまで、是非読んで欲しい現代の名著です。

<2011.9.28記>

※本書の指摘する商法改正に伴う経営学上の問題点についてはすべて同意しますし、その部分は名著です。しかし、その原因については、意図的な情報操作を行っています。この部分は、経済学をお手本にしたんでしょう(嫌味)。経営学の罪を逃れるために、経済学に責任を押し付け方がかなり極端です。あと経営学から脱線した部分は間違いもあります。以下、注意点を書き留めておきます。

英語wikipediaには、「所有と経営の分離」を書いたGardiner Means(ミーンズ)は経済学者に分類されていますが、一般の経済学のテキストでは、必ずしもこれに言及しません。英語wikipediaには、instittionalist(社会制度学派の人)と書かれており、一般的な経済学者の立場で言えば、国際経営論を専攻する人々と同じ扱いです。例えば、国際経営論のプロダクト・サイクル理論で有名なレイモンド・ヴァーノンは、経済学者から見れば、経営学者に分類されます。百歩譲って産業組織論でしょうか。この学問は経営学と経済学の中間の学問に位置します。

経営学者の中には、産業組織論の人を経済学から経営学の侵攻と受け止め、毛嫌いする人もいますが、御門違いな気もします。

それから、本書が主張するような商法改正には、MBA出身の方が主として関わっているので、MBAの責任になりますが、ビジネス・スクールの責任を経済学者の責任と言われてもおかしな話ですし、そのMBAの問題点を経済学者の佐和隆光(計量経済学専攻、後に評論家)が指摘していると言われても、佐和はMBAを経済学の分野と捉えていないので、歪曲引用に近いです。また、公認会計士出身の方にもアメリカ信奉者が多いことは知っていて頬かむりしているのではないかと思われ、この辺はフェアな記述をしておりません。わざと誤読されるように書いているようにも見えます。

歴史性を重んじた分析が魅力である高橋伸夫が、経済学のレフリー主義を批判する際に、歴史性を見ないのは片手落ちです。社会科学の分野では、総合的判断は縁故採用に容易に結びつき、特定の派閥採用で人事が乱れた反省の上に、制度化された側面があります。だから、総合的判断だけでも、制度的判断だけのどちらでもダメなのです。人間がやることなのだから。その失敗を経済学の制度だけに求めるのも御門違いな考えです。

最後の方に行くほど論考が甘くなっています。「所有者には責任がある」というだけでは間違いで、「他の人に影響を与える所有物に対しては、所有者には責任がある」というのなら正しくなります。だから、動物愛護の事例は不適切で、海外のように野良にして他人に迷惑をかけたり、動物自体が飢餓に苦しまないように殺すのも愛のうちという考えも存在しえます。もちろん、動物の飼い主に殺傷権があるかどうか、それが正しいかどうかは、単純に言えません。私は殺傷権なしに同意しないこともありません。しかし、その場合、野良にしない社会システムが必要で、そのための税金投入に社会的合意が必要であることは間違いありません。あまりに狭い価値観を振り回してはいけません。

例えば、他人に影響を与えない所有物としては、合法的に入手したもので、自分ですぐに食べる予定の食物、自分の部屋に飾る装飾品など多々あります。

<2011.9.28追記>

Kazari