書評


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[教養書] 武光誠(2001)「県民性の日本地図」文春新書
矢野健太郎(1961)「数学物語」角川ソフィア文庫
トルストイ[著]中村白葉[訳](1932)「人はなんで生きるか」岩波文庫

 評価は普通から良書の間くらいです。

武光誠(2001)「県民性の日本地図」文春新書 166

 邪馬台国九州説にたって、日本の歴史を概観する感じの本です。本書によれば、江戸以前は、相互交流の度合いが少ないため、盆地文化だったと主張しています。真偽はともかくとして、高谷好一(1997)「多文明世界の構図」中公新書などと共通の面白さがあります。方言に関しては、徳川宗賢[編](1979)「日本の方言地図」中公新書があり、こちらは単語中心の日本の方言地図を取り上げています。アクセントに関するのはガ行の子音のみですが、武光は第二章の「東の文化と西の文化」で、日本のアクセント分布図(40頁)などを提示しているのも参考になります。県民性を歴史的な視点から眺めているのも面白い視点だと思います。今日の県民性をだいたい江戸後期に求めていますが、広島が100万都市に発展するのは、呉が日本海軍の重要な軍港に位置づけられ、そのために周辺に重化学工業のための労働者として人口移動が起こったからなので、これを県民性に由来するかのように言われると違和感があります。

矢野健太郎(2003)「数学物語」角川ソフィア文庫 SP207

 2003年の第60版は現代口語になっているので読みやすいです。薄めの本ですが、気軽に読めます。幾何学は英語でgeometryと言いますが、土地(geo)、測量(metry)の意味で、古代エジプトにまで遡れることなど記されています。遠山啓「無限と連続」岩波新書も良い本ですが、矢野健太郎も良書です。ユークリッド幾何学と代数が中心ですが、文字や数字の関係について詳細に書かれています。

トルストイ[著]中村白葉[訳](1932)「トルストイ民話集 人はなんで生きるか」岩波文庫 赤619-1

 「光あるうちに光の中を歩め」あたりを読んでいると、物語の数頁を読んだだけで、結論が見えてしまうかも知れませんが、最初の話「人はなんで生きるか」の物語の構成はうまく面白かった。他4篇のタイトルは「火を粗末にすると−消せなくなる」「愛のあるところに神あり」「ろうそく」「二老人」。トルストイの本には、どんな悪人にも善性があるという人間性善説に対する信念があるので、これが嫌いな人は読むのが苦痛かも知れません。

<2011.9.29記>

Kazari