書評


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[普通] 「別冊宝島1821 原発の深い闇2」宝島社

 執筆陣は立派で、書かれている内容もそれなりに良い部分もあるが、粗製乱造感が残っている。もう少し、きちんと取材するなり、分析するなりの能力が、出版社にあってほしいものなのだが、・・・。

 例えば、政府の放射性物質の測定要綱はマスメディアなら入手可能なはずだが、それもきちんと調べきれていない。NHKに一瞬映った2冊では、1冊がγ線測定に関するものと題名に表示されていたので、ストロンチウムが検査対象になっていない。ストロンチウムの検査が地方自治体任せということは本誌でも、ちらと触れているが、役人は書類ベースで批判した方がいい。調べられるのに調べない方針を取っている理由としては、「セシウムの基準でストロンチウムを考慮できるようにしている」という説明を垂れ流し掲載しているだけであった。もしそうであるならば、核分裂過程の生成率でほぼセシウムと同量のストロンチウムが入っていることを想定していて、今後数年で白血病ならびに骨髄腫の罹病者が確実に上昇することが予想される。こういう本であれば、ちゃんとそういうことは指摘しなければならないし、「セシウムの基準でストロンチウムを考慮できるようにしている」という官僚答弁の具体的中身を取材して、記事にしなければいけない。

 産地偽装はあるのだろうが、実態解明とはほど遠い内容にも辟易してしまう。やらせ問題に議論を集中させると、得をするのは盗電などの電力各社になる。問題の責任があまり重くないからである。それよりも安全対策を露骨に怠っていたことを立証する方が、社会的責任が重くなる。もちろん、後者を記事にする方が格段に難しいから、安易に批判でき、電力会社の痛手も少ないが、派手なパフォーマンスに見える前者のやらせ問題を追及したいのだろうが、マスメディアの手抜きにしか感じない。

 原子力広報もゼロにすればいいと思うが、予算を積算しても大した額にならない。それよりも、電力中央研究所ひとつ廃止する方が効果がある。電力中央研究所の平成22年度の事業報告書にある通り、電力9社が給付金として電力中央研究所に27,377,598,000円を払っている。約274億円。その他の収入は委託研究費で国などからの予算だ。こちらは20億円程度である。電力各社の給付金の原資は我々の電気料金である。こんな提灯機関のために、世界で際立って高い電気代を払わされているわけだ。補償費用の捻出には東電側に人員削減でなく、人件費の削減と合わせて、無駄な事業の廃止を伴う経営のリストラが不可避な状態にもかかわらず、昨日の夕刊にはやくも政府に救済を求める提灯記事が東京新聞により掲載されている。

 原子力発電所の事故の補償費が3兆円で収まるはずなどないが、電力中央研究所の事業費は、10年間で300x10=3000億円になる。資産も売却すれば500億円程度あるようだ。だからこうした機関の廃止を求める方が、国民のためにも、被爆被災者のためにもなる。そもそもシンクタンク部門は民間活用すればよく、その資金も、業界から委託研究費で集められないなら存続する価値などないといえる。そういう意味では親会社丸抱えの提灯研究機関の日本経済研究センターもいらない機関のひとつである。こういう赤字部門を抱えつつ、新聞を高く売るのは、厳密には独占禁止法にも抵触している。

 一番大きい機関で日本原子力研究機構を、原子力発電所の効率的な廃止のための組織にすれば、いまの予算の1割でやっていけるはずだ。こちらは一年間の経営費用が1617億円と電力中央研究所より桁がひとつ高く、この2機関が他の原子力機関よりもずば抜けた経営規模なのだから、この二つを廃止もしくは改組すればいい。それに日本原子力研究機構は、総資産を7000億円も持っているので、1兆円捻出するのも簡単である。

 日本生産性本部が出した電気料金の試算などはまるであてにならないと本誌は指摘しているが、エネルギー庁や電力中央研究所、東電が委託して費用を払っている研究はすべてあてにならない。実際には、現在のずぶずぶに緩い現在の経営陣を一掃して、経営の立て直しをすれば、電力料金の値下げをしながら、原発廃止も可能なくらい現在の電気料金は水増しされている。それは第三者委員会が指摘するような小さな額ではない。

 この本の良い点を書いておこう。小出氏のインタヴューで次のような点が指摘されていた。「原子炉に穴が開いているのに、冷温停止という言葉を使う意味が分からない。」という趣旨の内容が書かれている。原子炉に穴が開いていることにより、福島第一原発の一号機、二号機には原子炉建物内に人が入れない状態が続いている。一号機に関しては、その後も地下もしくは海に汚染水を垂れ流している状態が続いている。循環水の不足分からもその事は明らかと言われている。そして、建物内の計器類が正常動作しているか立ち入って調べる事すら不可能な状態であるにも関わらず、建物内の水温が測れるとする東電の主張も合点がいかないという。そしてこの時点で政府が安全宣言する意味も分からないという。地下に石棺設備を作らなければならないが、それも東電の計画書では2年後、つまり小出氏の考えるようなまともな人間の安全基準では、早くても2年後にしか安全宣言が出せないことになる。もちろん、小出氏はこの工程表も遅すぎると批判している。当初、放射能汚染水をタンカーで柏崎刈谷原発に移動させ、タンカーは事後廃船にしてでも、柏崎刈谷原発の設備で汚染水処理すべきだと意見を政府に述べたが、無視されたとも伝えている。どれもご尤もな見解である。

<2011.10.19>

Kazari