書評


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[悪書] Richard H.Thaler, Cass R.Sunstein[著]遠藤真美[訳](2009)「実践 行動経済学」日経BP社

行動経済学で最も低質かつリバタリアン・パターナリズムで最も低質な組み合わせ

 これほど最低低質の組み合わせの本は久しぶりだ。前回の2冊より、はるかに極悪だ。

 読んではいないが、たぶん最近のG.Beckerと法律家の最低な本と同列なのではなかろうか。奇しくも著者がシカゴの大学の人と法律家という同じ組み合わせである。こういう組み合わせの著者の本は読んでも間違いだらけで意味がない。

 行動経済学の最も低質な部分は、ヒューリスティック絡みの話であるが、それは前回指摘したので、繰り返さない。実験に参加する人々の半数程度が、興味のない事柄で、特に確固たる評価基準を実験外部に持たない内容について、実験内部に基準に使える情報を織り込んで実験すれば、大衆操作的な事は可能だろう。こうした実験の設定をすることは容易いが、最早、学問とは呼べない水準のものではなかろうか。私も百万件程度、簡単に実験計画を立てられそうだが、学問の進歩には決して役立たない。古代ギリシア時代から知られている事実を言い換えたに過ぎない内容であるからだ。読んでいて、古代ギリシア哲学における問題設定の悪い哲学問題と変わり映えしない。

 行動経済学者が、このつまらない研究に心躍るのは、下らない実験で今後20年程度ネタが尽きないからなんだろう。この下らない提案をしたのは、イスラエルの学者Amos Tversky and Daniel Kahneman, 1974, "Judgement Under Uncertainty: Heuristics and Bias" Science 185:pp1124-31 という論文かららしいが、この本と先日25日に批判した2冊とも、この説を誇大宣伝している。こういうサークル活動による相互宣伝は、学問の発展や実際の景気を悪くする方向に作用することが多いので注意が必要である。

 日本でも、若田部昌澄、伊藤元重、岩田規久男あたりがインフレターゲットのキャンペーンをした時もそうだし、小泉の経済政策を絶賛した竹中平蔵、大竹文雄、若田部昌澄あたりの際には、景気どころが、国民の多くが犠牲になった。

 この著書では反倫理的な提案がいくつもあって気持ち悪い。典型的なのを3つ挙げておく。

1.メディケアについて、アルゴア案よりブッシュの案の方がよい
2.臓器移植を増やすために、臓器提供に関して意思表示のない脳死患者から州政府は勝手に、ルーチン的に臓器摘出するのがいい。
3.結婚を民営化する。

 いずれも馬鹿げた主張だし、論拠も示されていない。こういう本を図書館に入れる司書は能力が低いと思う。

<2011.10.27>

Kazari