[良書]近藤孝弘(1998)「国際歴史教科書対話」中公新書 1438
アジ歴という機関がある。外務省などの公文書を無料で、内外にデジタル画像として公開しようという大胆な機関である。この応援者に福田康夫などが名を連ねているが、福田康夫の講演でドイツの国際歴史教科書の事を知り、この事についてきちんと書かれていそうな本という事で読んだ本である。福田は好きな女優として藤原紀香などを公言しているが、このアジ歴の宣伝はなぜか藤原紀香が行っている。
前置きで脱線したが、この本自体は非常に良い本である。ヨーロッパでの歴史教科書の影響もあって、日本でも、日韓、日中韓の歴史の共同研究が行われるようになっている。ドイツでの国際歴史教科書の試みも紆余曲折を経て、生まれたものであることが丹念に描かれている。アジアでの歴史教科書となると、大変な時間を要するかもしれないが、平和を構築していくために、相互理解は欠かせない。福田は国防費のうち情報分析にもっとお金をかけるべきだという考え方をしている政治家であるが、私は、国際間を含む歴史研究そのものにもっと予算をかけた方がよいように思う。
「今日のドイツ・フランス対話は、歴史教科書対話の最も発展した形態と言われている」(45頁)そうだ。EUの統合が進む過程で、一国の歴史から、ヨーロッパの歴史と捉え直しがはじまり、その過程で、従来のドイツとフランスの歴史学者の間では、意見の逆転現象も見られたという。日本で言えば、地誌の水準で考えられた政策と、それより大きな国の水準で評価された地方での政策は、自ずと評価が異なることになることを示唆している。例えば、戦国時代の東北における領土争いは、伊達家の拡大を起こすが、伊達家に滅ぼされた地方は、当初は、自分の領土を失った時点から伊達家の全国制覇の野望があったと考えたかもしれない。しかし、豊臣の全国統一以降は、そこまでの野望が一地方との争いの時点ではまだなかったのではないかと評価が変わることは十分に考えらえる。この本では、コペルニクスを例にうまく説明がなされている。コペルニクスはドイツ人、ポーランド人と両国がそれぞれ主張していたが、新しい国際歴史教科書では、「ヨーロッパ一流の学者」という表現に落ち着いたとのことである。
書かれている内容で特に歴史理解に進展のあった部分に関しては、ドイツ・ポーランド間のものが多かった。また、ヨーロッパの歴史教科書ができる過程で、やはり限界があり、アフリカなどの奴隷貿易については、不正確な叙述に留まっている点なども指摘されていた。真に一国の歴史と世界史に差がなくなるような平和な世界になってほしいものである。郷土愛は、教育で洗脳して得るようなものではないはずだ。
<2011.11.26>