[低質]岸信仁(2010)財務官僚の出世と人事」文春新書 765
新聞屋さんが、事実を曲げてでも、財務官僚が優秀だと媚を売るために書かれた売文書。財務官僚と日銀の人と仕事をしたことがあれば明らかであるが、金融に関しては、理論、実務ともに、圧倒的に日銀の人の方が優秀である。仮に、5万歩くらい譲って、入省直後くらいの時点で、財務省の新人が日銀の新入行員と比較して、試験成績が優秀だったとしても、その後の仕事の質量の差によって約3年程度で能力が逆転すると断言しても良いくらいである。なぜなら、現在の財務省が、企画が一番重要となる主計局、脱税対策が大事になる主税局、国際金融局など、それぞれの分野で、全く異なる専門知識を要求される部署をたらい回しになる間に、日銀の行員は金融一本で能力を高めていくからでもある。
私は、日銀のトップクラスの人と、財務官僚のトップクラスの人が、金融に関する事柄で、対等に議論できているのを見たことがない。逆に言うと、今の白川方明総裁は、かなり優秀である。比較的有名になった(元大蔵官僚の)榊原英資の怪しげな経済理解など、白川方明には遠く及ばないほどの差がある。
この本を読むと、財務省の問題点がいくつか判明する。3点ほどあげておく。例えば、77頁に「大蔵不祥事で大量処分」という項目がある。これを見ると、本書の別所で粛清とまで言っている大量処分の実態が、極めて甘いものであることが明らかである。それを大量処分と言うこの著者の感覚は、鈍感の極みと言っていいだろう。「国家公務員法による懲戒処分が、停職1名、減給17名、戒告14人。大蔵省内規に基づく処分は、訓告22人、文書による厳重注意33人、口頭の厳重注意25人。」と書かれているが、処罰があったのは、停職1名、減給17名のたった18名で、あとは単に怒られただけの処分だ。民間企業なら処分と呼ぶこともないものだ。2名は辞職したそうだが、自らの辞職なら、退職金も支払われるから、処罰とは言えない。
この本で明らかになる第二の点は、内部リークに基づく取材が多いことである。こういう官僚のリークで飯を食うから、まともな財務省批判ができないことが分かる。
低質な書物ながら、財務省にある愚民思想の強さを反映する内容が書かれている。「トップに立つ人間には人の悪さが要求される」という内容が128頁などに書かれているが、典型的な愚民思想だ。財務省は、歳入省と歳出省に分けるべきというのは、権力が集中している割に、そこから出てくる震災対策にしても、非常に愚昧なものが多いからだ。それは、専門性の欠如も影響している。だから国家運営に特化するなら、財務省は、マクロ経済運営の責任に特化した歳出省(マクロ経済の安定と目標経済成長率の達成(例えば名目GDP成長3%)を省是とする)と、税収をあげることに特化した歳入省(実現成長率下での税収確保の数値目標を省是とする)に分離して、省庁の存在意義である省是を決めることが肝要だろう。
<2012.3.4>