[教養書]高橋清隆(2010)「亀井静香が吠える」K&Kプレス
私は亀井静香ほど神道主義ではないが、国家主義者としては、見せかけの石原慎太郎などより、はるかに気骨のある亀井静香の方を高く買う。官僚・経団連・マスコミのほとんどが米国従属主義で、能力が低いため、アメリカと議論することすらなく、ひたすら国益を叩き売りする昨今においては、宗教感情は違えど、政策手腕としては期待せざるを得ない側面もある。彼は、ああ見えても東京大学経済学部卒業で、彼の採用した経済政策を見れば、財務官僚より経済政策に明るいことは確実である。竹中平蔵や伊藤元重より実体経済がよく分かっていることも保証できるくらいだ。金融担当相の時の政策もほぼ完ぺきだった。
そうした事柄を亀井自らの発言内容から、明らかにしてくれる新書だ。
97頁に「土居丈朗は竹中平蔵の弟子」とあるが、これは完全な事実誤認。彼の大学および大学院時代の指導教官は井堀利宏であり、指導教官の影響もあって、彼は大学時代から財政均衡主義者であると自ら公言していた。大の自民党好きで、経済政策として竹中平蔵との共通性はあまりない。今のアメリカが財政均衡主義だから、親米にも、売国主義にもなりうる。しかし、政権与党好きを公言する点くらいは竹中平蔵と同じと言えるかもしれない。もともと井堀利宏が財務省の仕事をして、それを引き継いだような側面が強いし、論文を書く能力は竹中よりはるかに優秀である。だから弟子というなら、本人も公言しているように、井堀利宏の弟子と言うべきだろう。どうでも良いことだけど。
99頁に米国の国際経済研究所(IIE)に関する記述があるが、英語公用語化を唱えた船橋洋一や竹中平蔵が、ここの仕事をしたそうだ。本書にはないが、IIEの仕事をしたことのある経済学者には、他にも、浦田秀次郎、佐々波陽子など多数いる。最近、日本にまったく貿易利益をもたらさないTPPを、日本経済新聞社のシンクタンク「日本経済研究センター(JCER)」の出鱈目な研究をもとに、浦田秀次郎が農産物の低価格化で消費者利益があるという発言を載せた東京新聞の提灯報道があった。しかし、計算可能な一般均衡(CGI)モデルを使って、消費者利益の部分を正当化できても、同じ研究結果のGDPベースの話をすれば、農民の失業で相殺される程度の効果もないから、この発言通りなら、浦田がデマ発言したことになるが、実際はどうか?
<2012.7.2>