最近読んだ本の寸評 Part.2 単行本編
単行本編です。最近、単行本の質の低下は顕著過ぎる気がしてきています。
[教養書] 内橋克人, 奥村宏, 佐高信[編](1994)「企業活動の監視」岩波書店
先に寸評だけ、専門用語の所にこの本から2つ追加しました。良く書けてます。
[低質] アジア開発銀行(1998)「アジア 変革への挑戦」東洋経済新報社
はじめにを読んだだけで、読む気がなくなるような本です。開発銀行の書くべき本とは思えない。出版時期の問題もありますが、かなりグローバリズム万歳主義に陥った視点で書かれた本です。
[ゴミ] Tim Harford[著]遠藤真美[訳](2006)「まっとうな経済学」ランダムハウス講談社
経済学の初学者が、理論の適用を間違いながら出鱈目に解説した書物です。間違い探しにどうぞ。馬鹿に共通するのは、低質な本から孫引き引用するからなのですが、相変わらず、堅牢な銀行になった理由を歴史を調べずに、情報の非対称性から説明できると寝ぼけたことを言っています。これ馬鹿が言い出した後付けの謬説なんだよね。まぁ集金だけして銀行自体が夜逃げという事件もあったろうけど、銀行史を読めば明らかなように襲撃を受けた時に耐えられないようだと、預金保険機構もない当時は、預金者が強盗に金を盗まれた時のリスクを負うことになるから、うちの銀行は強盗に襲われても金庫は破られないとアピールする目的で、堅牢化したというのが歴史事実なんです。たいていのアメリカの銀行史に書いてあるから、読書や調査をしないで書くと痛い目にあうという典型ですね。また、この人馬鹿だから、国営保険と民間保険を併用しているイギリスと民間保険だけのアメリカを比較する際に、民間保険を利用したときのアメリカの利用者の満足度と、国営保険だけ利用した際のイギリスの利用者の満足度を直接比較しています。学者としてあるまじき不見識。万事この調子で辟易いたします。
イギリス国営医療機関の利用者の満足度が20数%で、アメリカの民間保険の利用者の満足度が10数%であることを著者は取り上げて、直接比較できない指標なのに、たいした差ではないとか寝ぼけた主張を多々行っています。国営医療機関で保険対象になっていない医療によって、失明する人がイギリスではいるし、そのような決断を政策担当者がしなくてはいけないから非人道的とか、かなり一方的です。アメリカで無保険者は、医師にかかることなく失明だから、無保険よりイギリスの方がましなんだけどね。イギリスの政策担当者が非人道的決断をしていると非難するけれども、アメリカは民間保険会社の保険支払いを決める査定側の医師が、必要な診療を不必要とすることで、儲けを出す仕組みなので、こちらの会社ぐるみの非人道性の方が、国家予算の枠内で悩むイギリスより、利益追求のために必要な医療をしない民営の方が陰湿で非人道的です。こういうのをごっそり抜いて、一方的にイギリスの国営医療を批判している書き方を見ても、資源ゴミと言えます。訳すのも出版するのもどうかしている水準。
著者について真面目に調べる気はないですが、本書を読めば、アメリカ医療保険業界から金をもらってデマを書いている類の人であろうとの予想が成り立ちます。
<2012.10.26>
医療に関しては、シンガポールの制度がいいとか言ってますが、典型的な木を見て森を見ない議論です。この著書で、シンガポールでいいとされる制度「高額療養費制度」は、日本にもありますが、日本の保険行政は実質的に破綻しかかってます。典型的には、「高額療養費制度」の保険利用者が高額所得層に偏っており、その一方で、人頭の部分の保険料を重点的に値上げした結果、無保険者の増大につながっています。つまり、制度よりも経済成長の方が、医療保険の維持には大事であり、特に保険制度は原則として、保険利用者を保険無利用者が支える制度になっていることが影響しています。それは著者の言うような資金プールの部分を作った所で、うまくいく訳ではありません。それは机上の空論です。なぜなら年金のような制度も、市場でも政府でも簡単に破綻するからです。積立の方がましですが、積立だからといって破綻しないなら、皆、積立制度に移行するのが、正しいはずですが、実際はそうなっていません。
逆に言うと、経済成長が堅調な時には、ある程度悪い制度であっても破綻などすることはなく、経済成長が実現できない時は、どのような良い制度であっても破綻の危機に直面します。また、市場であれ、政府であれ、運営するのは人であることには変わりありません。だから、制度の可否は、人の運営能力にも依存します。シンガポールの官僚は、いまだに国民の福祉厚生の増大を目標にしている Civil Servant (官僚)の見本のような人間が多いように見受けますが、日本の官僚は、「馬鹿な国民を騙して、自分だけいい思いをして当然である。それだけの試験に受かって自分は優秀なんだから」と勘違いした馬鹿官僚の方が多い。だから、シンガポールの制度を真似たとしても、運用が悪くて制度ごと破綻してしまいます。アメリカは軍を除いた政府不信が強いから、結果は同じです。
医療制度に関しては経済が好調なところの形式的な制度を見て、いいと言い、それを後付の屁理屈で正当化しているだけです。現在のシンガポールのような医療保険の運用を行うことは、残念ながら、現在の日本やアメリカの官僚では力量不足です。
<2012.10.30>