[普通] P.Krugman[著]三上義一[訳](2008)「格差はつくられた」早川書房
アメリカの話であるが、格差は、市場経済によって生まれたのではなく、税制によって人為的にできたものだということを主張した本である。
定量的な部分はそれほど真面目に見てないし、こうした事柄は、一方的因果関係というよりは、相互補完的なものだから、少し割り引いてみておく必要はある。しかし、鋭い指摘も多い。例えば、マスメディアが保守派を煽るやり方は、民主主義に反しているなどの主張である。本書を読むと、現在の日本の選挙報道の在り方がまさに間違いの元であることが分かる内容になっている。
本書は、新古典派から攻撃を受けているニューディール政策の意義を所得分配の観点から肯定しようという新しい試みでもある。そして、所得分配の観点から、アメリカの歴史を見通すと、現在アメリカで進行している事態の大枠がよく分かるようになる。ニューディール政策からレーガン登場までは、著者は他の著者を引用して「大圧縮」の時代と呼ぶにふさわしかったと述べている。この間は、所得格差が急速に縮まり、アメリカ国民の大多数が所得を増大し、幸福を実現できたが、レーガン政権以降は、逆に所得格差が急速に拡大し、その事が国民の多くを貧困化させ、そのため、現在の民主党オバマが支持されるようになるだろうと的確に予想している。その予想は現在、現実化している。
所得拡大の要因は、レーガン時代から、マスメディアが米国の保守派の主張を手を変え品を変えて、湾岸戦争や9.11で対外危機をマスメディアを使って煽り、更には暗黙裡に人種差別感情に訴えて、財政赤字の要因をすり替え、低福祉で小さな政府を目指すべきだという幻想を与え、高額所得者に有利な税制を変更したことを指摘している。レーガンの頃のアメリカの公務員数の大半は、Adam Smithの言う夜警国家の国防軍、警察、消防士だったのにも関わらず、現実を歪めて報道した。母子家庭への給付カットもそれをあたかも黒人が得ているかのような操作情報をもとに、保守派の理屈を押し付けたと書かれている。日本の小泉政権が行った事との類似点の多さには呆れるばかりである。
つい先日の日本のマスゴミの生活保護問題の報道も、アメリカ保守派の煽り報道と同じ種類の情報操作である。
レーガン以降の税制変更によって、所得・資産格差をアメリカ国内で極端に広げ、言論を歪めるにまで至っていることを指摘している。
P.Krugmanに関しては、多くの日本の知識人が、歪めて情報を伝えるようになった。その背景には、日本のマスメディアが、アメリカの保守派にあたる陣営(アメリカの共和党)の考えだけを肯定報道するからである。この点に関しては、筑紫哲也の本を読んでも、読売と朝日が結託していると指摘されており、事実としか考えられない事象が数多く起きている。アメリカ共和党の空気を「読」み、日本の国益を「売」る新聞などが政治関与できないように、不買することを若者には特に勧める。
アメリカ共和党の傀儡国家化しているマスメディアが潰れることが、日本の民主主義や日本の独立国家として存続には必要になってくることがこの本を読むと、よく分かる。
<2012.12.5>