書評


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[普通]三浦永光[編](2004)「国際関係の中の環境問題」有信堂

 評価は辛めの普通にした。個々の章ではよく書かれているものもある。一番どうしようもなく悪いのは、横山久の第I部第5章である。なんで入れたのかなぁ。他の章に関係性が皆無だし、環境事例の規制の事例から言えば、圧倒的に直接規制が多く、途上国絡みで価格インセンティブに頼るようなものは、先進国の利害に一致しており、極端にいえば意味がないという主張まである。その中で、この5章は事例研究としては低公害車に対する消費者への税免除の一例だけでもって、経済政策としては、価格誘因をもたらす税制が良いと結論している。

 さて過去の公害の事例への対処としては、水銀などの排水規制をはじめとして、みな直接規制である。抜本的な解決策であり、目覚ましい効果がある。同様に排ガス規制も、導入当初は自動車業界から猛反発があったが、投資した結果、世界一の競争力を手に入れている。横山が理屈の上でピグー税が正しいというのなら、実例を検証すべきだろう。また、横山は直接規制は企業の投資減退を招くと批判しているが、過去の経済の歴史を調べてもそのような事が起こったことを私は知らない。歴史上あるなら、指摘するべきだろう。過去の実績で言えば、直接規制が成功した事例は枚挙に暇がないが、価格誘因を導入してうまく制御できた事例はほとんどない。

 執筆陣はみな津田塾大学の教授らしい。横山久の書いた新古典派的な内容以外に、そのような記述は見当たらない。後はマルクス経済学者でもない限り、そうは書けないだろうといった先進国企業批判などが多々書かれている。

 杉崎京太が執筆した第3章はマルクス経済学の説明があるが、本書の意図から必要と思えない。また、どこに書かれていたか忘れたが、多国籍企業を批判する目的で、メセナ活動の類も「・・・宣伝の可能性が高い」と書かれた箇所があるが、こういうのはいただけない。学者なら研究費を使って調べろよと言いたい。せっかくまともな章もあるのに、こうした低質な点が本書の価値を低めている。

 特に優れているのは、ナイジェリアの石油開発にまつわる話である。小倉充夫が第II部第4章アフリカの環境問題で指摘している。205〜211頁が該当部分である。オゴニ生存運動の指導者サロ・ウィウが石油会社シェルに対して、環境破壊の停止などを求める活動を行っていたが、ナイジェリア連邦政府の1994年の軍事政権によって、近隣少数部族との対立を煽られた挙句、翌年殺人罪で処刑されている。日本では話題になっていないが、その当時、シェルは国際的な非難にさらされている。

 そうした土地で、今回のテロが起きたことはまったく報道されなかったのはなぜだろうか。

<2013.2.10>

Kazari