[普通]橘木俊詔、参鍋篤司(2016)「世襲格差社会」中公新書
評価は甘目の普通にした。実証の部分がやや中途半端。この手の世襲については、なかなか統計で追うのが難しい問題がある。具体的に考えると分かりやすいので、たとえば、生島ヒロシとその息子、生島淳について考えよう。生島淳は博報堂の広告代理店勤務を経て、1999年スポーツライターを本業として独立したらしいが、父親と同じタレントのような感じになっている。同世代のフジテレビニュースキャスター露木茂の息子が同じパターン。息子が早稲田大学卒業後、広告代理店、たしか電通に入社している。こういうのは、個人的にほぼ世襲と感じる。こういうのが現在の日本にはたくさんある。
父親と同じ遍歴や同世代の経歴の親の息子が同じパターンの職を目指すなどあると親の七光り採用でもあるのかなと思う。統計では労働移動として表れてもあまり意味のない場合が多数あることを示唆しているが、これを計量的に把握するのはほぼ不可能。既存の統計がそのような目的で収集されていないこともあり、この手の実証分析を行うには、ミクロのコーホートデータを大量に集めるしかないが無理だと思う。事例についてはまぁまぁまとめて知ることができるのは良いと思った。
[普通]東谷暁(2012)「郵政崩壊とTPP」文春新書
評価は甘目の普通にした。インタビューの部分がやや迫力不足かなぁ。もう少し丁寧に亀井静香議員あたりの話を聞いて裏付けのまとめをした方が論理的になったのではないかな。アメリカの通商政策の説明も先にしたうえで、インタビューまとめた方がいい気もする。
[普通]小林正弥(2010)「サンデルの政治哲学」平凡社新書
評価は辛めの普通にした。サンデルの考えを知るには非常によくまとめられていると思う。私のサンデル評価自体が低いので、。。。
ハーバード白熱教室の時とサンデルの印象は特に変わらない。たぶん、この手の哲学者が物足りなく感じるのは、人との対話になんか変な思い入れを感じるからかもしれない。ハーバード白熱教室の講義スタイル自体は斬新かもしれないが、誰にでも真似できるつまらないものだ。特定の意見を誘導して、既存の哲学者の(哲学の初等教科書的浅薄な理解の考えの)型であるとして解説したうえで、議論を組み立てる。講義を聴いている生徒は、分かった気分になるかもしれないが、あまり理解の深化に役立たない。講義に触発されて猛勉強すれば、別だが、。。。
対話を重視するなら、人間の認識や論理についてどのように考えているのか、サンデルという哲学者本人の基本的立場をより正確に知りたいと思うというのもある。たとえば、ベルクソンのような哲学者は、人間の対話論理に使われる三段論法の因果関係について詳しく考えた哲学者で、私は高く評価している。この因果関係すらいい加減に用いているというのがベルクソンの基本的立場である。この立場にたつと、対話にそれほど大きな力や希望を見出すのは無理な気がするのだなぁ。
サンデルの哲学理解は講義で利用されるような場合は特に軽薄に感じる。特にニーチェとか教科書的すぎるかなぁ。ニーチェは著作というか作品を読んだ方がいいよね。また、厚生経済学的にアローの不可能性定理とかを意識してサンデルが考えているのか知らないが、人間の認識の判断基準が二つくらいと仮定して論理を組み立てている気がする。三個以上だと数学的に解けないからね。合理的思考が担保できなくなる。だけど普通の人はもっと多数のベクトルの評価軸を大局観のようなあいまいな方法で、(非合理的に)「えいやっ」と判断しているものだと思う。そういう眼差しの欠落した哲学は薄っぺらに感じてしまうので好きになれない。
<2018.8.30>