書評


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[低質]原田泰(2015)「ベーシック・インカム」中公新書 2307

 いや気分の悪くなる本でした。有用なのは、数値例がある三章のみです。この人は人権意識が欠落してるんじゃないかな。

 ベーシック・インカム(以下、BI)自体は可能性のある有効な制度足りえるのですが、原田式に導入するのは反対です。財源についても他にいろいろ考えようがある。働けない障碍者には現行の生活保護を手厚くしてもよいくらいであるし、そもそもイギリスより日本の生活保護水準は高くもない。このあたりの数値例は計算がおかしいとしか思えないですね。

 また憲法に対する誤読をしていて、原田式BIの低水準で暮らせない人は、居住の自由があるのだから、物価の安い田舎に行けばいいという趣旨の、発言まで見られます。反吐が出るなぁ。

 どこにでも居住の自由があるというのは、引っ越しの自由があるという意味ではないのですが、タバコを吸う馬鹿が、よくこの転倒した論理を悪用して、ぜんそく患者に田舎へ引っ越せとかいうのですが、逆なんだよね。

 ぜんそく患者であったとしても、国内であれば、どこでも快適で安全に最低限度の生活が営めるようにすべきであるし、居住地を自由に選べるべきだと憲法はうたっているのです。「物価の安いところに、空気のきれないとこに行けば」が憲法違反な考えそのものです。ついでに言うと、行政の裁量権で生活保護水準をいかようにもできるという最高裁判決が憲法違反な考えなんだよね。

 日本って本当に幼稚な人権後進国だよね。大人になろうよ。

[低質]佐伯啓思(2015)「さらば、資本主義」新潮新書 641

 経済思想史を読んだ際は普通と思っていたが、いや本当に低品質でびっくりしました。勉強不足というか、ろくに調べもせずに書いた印象しか残らない。

 最初の方に書いた原発の肯定の仕方が愚か。普通、保守派の人の本音は、原発の維持は、いざという時(戦争勃発時)、核兵器を簡単に作れるからですよね。そのことに言及ないし。本当にこの人、保守派と自称しているけれど、保守派なんでしょうか?

 佐伯という学者の、有識者の意見より、女子高生である「制服向上委員会」の意見を重視した朝日新聞は馬鹿だと暗にけなしている箇所があります。朝日新聞は庶民感覚を売りにした新聞でもあるので、女子高生の声を重視しても当然と言えば当然かなという気もします。朝日のそうした特徴を意図的に言及せずにわざわざ書くようなことではないので、単なる紙面つぶしに相当する箇所です。とにかく、このようなへんてこな主張や駄文だらけで辟易します。ピケティの話題にあやかって書いただけの駄文の集積です。

 決して買わないように。反駁の練習材料としても使えないほど低品質で浅薄。

 資本主義について正面から議論している箇所は少ないし、議会制民主主義の脆弱性を真摯に議論した方が実りがありますよ。

[低質]川北隆雄(2014)「「失敗」の経済政策史」講談社現代新書 2267

 だいたいこの世代の著作は手抜きが多いですね。非常に低品質で呆れます。完全に財務省御用学者の主張まるのみで唖然とします。また、いくつか実際に行われた経済政策を理解していないし、その理論的関係も間違って叙述した箇所まであり、こんなバカな人だったのかと呆れました。

 小泉以降、大蔵省の財政政策は、真水部分はない予算数値だけかさ上げしたもので、財政出動は実質ゼロ成長です。一方、減税を主体にした政策を行っているので、マネタリストの考えに従った財政政策です。これをケインズ政策と主張するのは経済学を知らない者の言い草で呆れるほかありません。川北は経済学を知らないのですね。

 日本の現状で、このマネタリストの財政政策を行う事は、財政赤字を増やすだけで効果がないと言われており、ポストケインジアンのP.Krugmanなどから痛烈に批判されています。そして減税の効果なんて検証すらされてないんですよね。経団連から政治資金が欲しいから行っている無駄な政策ですよ。

 それに現在、財務省にポストケインジアンの経済政策を理解している人はほぼいません。ケインジアンは、この時期に累進税率の増大と真水部分の増加をともなう財政出動を政策提言しています。セットで日銀に日銀券の「増刷」を求めていて、黒田バズーカーですら、国債や株式購入でマネーベースを増やすというだけで「増刷」はしていないのです。増刷には日本の国会での承認が必要ですから。

 日銀黒田総裁、FRBバーナンキの際にアメリカに求めれば、増刷は可能だったにもかかわらず、努力してません。白川の時はまだアメリカ経済が低迷中なので「増刷」は断られたと思います。ちなみに日銀がバブルの引き締めをしたかった当時は、アメリカの要請もあって、利上げできませんでした。そのうち全部、外交資料で明らかにされることですが、アメリカに気兼ねして本当のことを書けないなんて評論家失格ですよ。

 こんな基本的なことも分からずに日銀批判を展開していて、頭のおかしい人感が満開ですね。

 バブル崩壊に関しては、日銀が手を付け、一評論家の佐高が平成の鬼平と評したからではなく、新聞各社が日銀をもてはやしたので、大蔵省が焦っていろいろ政策を行ってバブル退治の主体は大蔵省と主張して争うから、おかしくなったのというのが実情です。日銀の最後の利上げが不要だったということもありますが、大蔵省と日銀の経済実態を無視した手柄争いが原因なんだよね。こういうのって官僚は見苦しい争いするよね。でもマスメディアにも大きな責任があります。煽ったんだから。

 こうした整理をすれば、この間、議会制民主主義の危機になっていることは明白です。マスメディアの報道による政治のチェック機能は働いていません。例えば、経団連の求める減税の景気対策効果はないのに、これを批判したことはありません。その浮いた未曾有の内部留保について言及するだけ。そしてそうした内部留保から政治資金が還流して、また無駄な減税政策が続き、政府の所得再分配で、再分配後の所得格差が拡大するような状況を看過しています。

 こうなると、議会制民主主義もへったくれもなく、1000万円以上の高額所得者と投票率の高い高齢者の政策ばかりが実現されやすくなり、産業構造もこうした層に手厚くなれば、産業構造のゆがみとして非効率性をもたらします。実は、観光立国化も同じような側面があります。経済理論の比較優位の議論を用いれば、外国の富裕層相手の商売の比率を高めて優先し、その分野の効率性を図るという事は、そのほかの産業の効率性を落とすことを意味するからです。

 本当は、こういうことが問題なんだよね。つまり、中流層の必要な製品などの効率化も落ちるから、価格的に割高になり、富裕層はデフレ気味でますます富み、中流以下はインフレ気味でますますやせ細る。

 こういうことを続けると国力が落ちます。

 比較的まともな点は2つだけ。竹中平蔵を「政商学者」としている点、雨宮処凛に言及していることくらいですね。

 しかし、それでも取り上げ方は不十分です。竹中平蔵は、不必要な統計をなくすべきだとして、大臣として統計人員の削減を行った張本人で、それを指示した小泉純一郎首相も同罪です。竹中大臣は自分の息子のシンクタンクに大臣時代に多くの受託研究を落とした疑惑で検察が捜査をはじめるタイミングで辞任しています。大臣辞めたら無罪放免ってどんだけ詐欺体質なのかなぁ、日本の政治家と官僚は。

 現在の厚労省統計の問題は、人為的に、小泉純一郎首相と竹中平蔵によって作り出されたもので、官僚機構の問題というより政治家の責任です。その小泉首相の息子が文句を言えた筋合いの話ではないのに、政治家もマスメディアも厚顔無恥の嘘つきで、白けますね。

<2019.2.4>

Kazari