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[普通]川西諭(2013)「ゲーム理論の思考法」中経の文庫485

 評価は普通です。珍しく典型的な書評の型に則して書きますね。悪い点は、第一に著者に関係ないですが、この色刷り、意味を感じません。見にくい。第二に、ゲーム理論の有用性がおおげさです。良い点は、とても平易に書かれています。第四章まではとても分かりやすい。事例も多いので、ゲーム理論の入門書としては良いのではないでしょうか。

 まず、少し悪い点について補足します。特定の経済や経営の事例をゲームの型にはめて、分析するというのは学問を志す初学者の方には役立つと思います。ビジネスマンに役立つかと言えば疑問です。直面する問題により的確に対応した方がいいので、型にはめた段階で現実とずれているとかえって事態がね、解決困難になります。また型にはめといて有効な解に誘導できないゲームなら、その枠組み自体を変える思考法を取ることを提唱しています。なんか面倒くさいですね。そもそも事例研究を真面目に行った方が多様な対応ができそうなので、「ゲームとして捉えてルールを変える」思考法により優位性があることを分かりやすく解説する必要があるように感じました。また、ゲーム理論というよりゲーム論くらいが適当と思うので、以下、ゲーム論とします。

 雇用より長期雇用の方が良いことをあげて、日本の誇るべき文化とまで言ってますが、もはや過去の絵空事に過ぎないですね。為替レートの変動が大きすぎて、企業経営において資本の稼働率やワークシェアリング程度では吸収できないということになり、短期雇用だらけになりました。それを労働の流動化ともてはやすけったいな世の中です。人間本位なら、数年の間に為替レートが1ドル80円から120円に動くこと自体が経済効率を損ねるので、金融市場の何らかの制度設計の変更が必要不可欠なのは明白です。一部の大資産家や金融業界に阿るのはいい加減にやめないと世界経済のシステムが壊れていくと思う。

 こうしたことは、ゲーム論の思考法を使って、現状を正確に分析できると思えないな。考えるきっかけとしてのゲーム論はありとしても、ちゃんとした分析や思考法には向かない気がします。

 もうひとつ具体的な解説でバブルの仮説は面白いです。著者とは意見が異なるので書いておきましょう。従来、バブルが終わりない資産に対しておこるものだと考えられていたそうです。ノーベル経済学賞をとったバーノン・スミスが、期限付きの証券を売買する実験市場を学生で試したところ、頻繁にバブルが発生したそうな。著者はこの理由を適正価格を知らない人が市場に参加していると解説していますが、適正価格を教えた上で同じ実験をしてもバブルは起きるはずなので関係ないと思うよ。

 実際には、適正価格がどこであれ、金融市場はうまく売り抜けた人が大勝ちするゲームなのだから、市場参加者が理知的に小さい利益の積み重ねを狙うことが合理的なんて言えるはずないよね。ゲーム論的な思考法を勧める書物の割に最後はよく分からない叙述が多かったです。また、別の研究で、ファンダメンタル(適正価格)からオーバーシュート(大幅にずれること)が数年続くことも金融市場では珍しくないという研究もあります。

 まぁというわけで評価は普通です。ゲーム論は応用の一端として専門書も読みましたが、専門書にしても、ゲーム論の思考法の優位性は言えないです。

<2019.2.15>

Kazari