書評


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[トンデモ本]Jeffry Sachs[著]鈴木主税・野中邦子[訳](2006)「貧困の終焉」早川書房

 Sachsが思い込みの激しい馬鹿であることがよく分かる本である。内容は超低質、原因はSachsが大学生向けの開発経済学のテキスト、Michael P.Todaro程度の知識がないことに由来している。門外漢の蛮勇には恐ろしいものがあるが、正鵠を得ている唯一の点は、歴史学からも明らかな通り、いつの世も経済危機の際には、徳政令(債権放棄)が必要不可欠であるということである。しかし、金融専門のSachsに言われなくても自明ですけどね。

 また開発提言が妻が医者のために、バイアスがかかり、医療に傾き過ぎである。とにかく命を救うのが優先らしい。持続可能な成長を謳うなら、まず所得上昇の生活安定がないとね。援助依存の医療で生きながらえても、人生を謳歌できない。Sachsは現地で暮らしていないからこんな愚かな提言しかできないのだと思う。NGOの知り合いもいないのかなぁ。嘆かわしい。医療に重きを置き過ぎると発展戦略に新たな貧困の罠を持ち込むようなものなので迷惑だなぁ。

 総評として本書を読む価値はありません。Sachsは論理性が乏しいので、箇条書きが多いです。開発の優先順位が分かっていない証拠でもある。一番大事なのは安定な生活に必要な所得回りで、次いで、初等教育>医療です。もちろん、相互に必要不可欠な範囲で同時進行が必要だし、国、地域により、必要な予算バランスは異なります。

 最低限、Sachsには、Todaroと中村哲の本を読んで開発を理解するまで発言して欲しくないですね。馬鹿の証拠は、本書を読むと枚挙に暇ありません。少し指摘していきますか。影響力のあるバカは本当に性質が悪い。

 大学向け開発経済のテキストで、万能薬などないことは記述されていますが、そういう基礎知識のない門外漢のSachsは、「開発を考えるときの弱点のひとつは、つい「魔法の銃弾」、つまり何にでも効く万能薬を探してしまうことである」と虚偽を記しています(362頁)。つまらない虚栄心のあらわれた箇所だよね。自分の無能を誤魔化す目的で書いたとしか思えない。そんな小学生な考え方するのは、Sachs教授自身と、比較的無能な軍出身の政治家くらいですよ。開発経済の専門家はそんな考え方しません。

 知識の欠落したSachsは、「中国が人口密度世界一」との記述している。もちろん誤りで、人口密度一位は2017年でマカオ、シンガポール、香港と続き、19位インド、25位日本、56位中国である。普通中学生の地理程度の知識で間違わないよね。訳ミスかな。仮に人口の間違いとしても、開発経済では、インドの人口統計は過少推計なので、この本が書かれている頃には、統計上は異なっても、人口はインド>中国が常識の類です。

 いろいろな説があると言いつつ、一般的なHivが広がった説として、「アフリカ人は性交渉が緩い」という趣旨の偏見を繰り返し書いている。悪質ですね。開発経済関連の一般説は、アフリカに展開した多国籍軍の軍人が自身のHiv感染を知り自暴自棄になり、現地女性を、権威を傘にレイプもしくは金で買いまくった結果というのが通説です。国連軍を含むので、国連の仕事してるから意図的に書かないとか幼稚ですよ。箇条書きが好きな割にアフリカ人を貶める目的のこの記述は、自分の書きたいことをしつこく書いて、他の説をまったく紹介していません。こうした事から、Sachsの性格が粘着質、かつ偏執狂であることが確認できます。Sachs教授には精神科にかかることをお勧めする。

 世銀やIMFを批判するなら、国連軍も批判できないとね。馬鹿すぎます。アメリカの援助が少なすぎるのはその通りなので、Sachsは、アメリカ国内で対外援助増額のための活動に専念してくれないかな。開発現場では迷惑にしかなってないよ。

 言い訳に終始したソ連と中国の違いを読んでいると気分が悪くなるね。タイを加えてみると、Sachsの戯言は通用しないことが判明する。

1.多額の海外債務の有無

2.長い(交易可能な)海岸線

3.対外に中国人コミュニティ

4.石油生産の急激な落ち込み

5.互換性のない高い技術

 タイは、1は中間、2,3は無でソ連と同じ、互換性のない高度技術はない。さて多額の対外債務の有無はどの国であっても開発の制約要因なので、中ソの特殊要因ではない。2も同様、だいたい2については別の箇所で関係なく発展できた事例をSachs自身があげていて、本書内で論理矛盾が見られる。3もSachsの主観的判断で、多くの国に中国人コミュニティがあるが、うまく成長している国もそうでない国もある。関連性が乏しい。Sachs自身、成長すれば、成長阻害とされた要因、例えばマックス・ウェーバーの中国の儒教をあげて、成長した途端にそうした要因は忘れ去られると書いている。ならば、ソ連のこの5要因もソ連が成長したら、すべて忘れ去れる阻害要因でなければ、論理的に矛盾している。4は対外要因で普通、一次産品に特化した経済構造を持っていれば、成長阻害要因となるけれども、ソ連ほど大国だと交易条件を変えられないとは言い切れず、要因に挙げるのは疑問である。むしろ成長のために、石油を確保する必要性がない点は、成長阻害要因が他国より少ないともいえ、客観性のある基準と思えない。5も主観的すぎて意味がない。労働者の質が高いと考えれば、必ずしも不利な点ではない。

 これとは別に投資が投資を呼ぶ構造など中国について述べているが、高度成長を経験した国では、すべて同様の現象が起きている。好循環とはそういうものなので、ここでもSachsの浅学さが際立っている。

 所詮、Sachsの「ショック療法」失策の言い訳だから、論理性はない。この本を読むと、Sachsは、市場経済への移行コストを無視していることが、いちばん不可解である。Sachsがそう呼ばれるのを好まないとしても「ショック療法」の批判の多くは、市場経済への移行コストを無視しているという点にあった。急進的な市場化を推し進めると、大量の失業者が出て、社会的にセーフティネットを引くと移行期間中の費用が高くつくし、何もしなければ政治的に政策を維持できないから、徐々に変革する方が社会として痛みをともなわないという批判である。そうした批判にまったく真摯に向き合って答えようとしていない不誠実な本でもある。

 インドの章は、Sachsが無能さを無邪気に語っていて気持ちの悪い章である。私の大学時代ですら新書で読める程度のインドについて歴史などを書いて、経済の教科書に書いてないと記して、嬉々としている感じがとてつもなく気持ち悪い。アホすぎる。

 センについて「民主主義国家に飢饉がない」いうのは言い過ぎと難癖をつけているが、論文を本当に読んだのかなぁ。センは哲学好きなので、癖のある作法で論文を書いている。例えば、ノーベル経済学賞の授賞理由となった同論文は、センは「民主主義国家」を暗に「非常時用の国家的穀物備蓄があり、マスメディアが機能しており、飢饉時に商人の買い占めをできる状況をマスメディアが許さず、国家が適切な備蓄放出を行う」国家と定義している。明治以降の日本などを想定しているのかもしれないが、実在しなくてもよいわけで、Sachsの主観的、もしくはセンと異なる民主主義国家の定義を用いて、民主主義国家で飢饉があったとの批判は論理的でもなく、的外れなものになっている。

 貧困撲滅に役立つプロジェクトに至っては10ほど挙げらえているが、Sachsと関係ない仕事だし、Sachsの批判する世銀・IMFが関わっているプロジェクトも多いなぁ。

 まぁいずれにしても読む価値がなく、中村哲や黒田基樹の本を読む方が、論理的に書かれている分、早く読めるし、内容も豊富です。

 ここ何冊かの本を読んでの教訓は「門外漢の蛮勇は百害あって一利なし」です。

参考文献

黒田基樹(2014)「戦国大名」平凡社新書713

中村哲(2003)「辺境で診る 辺境から見る」石風社

<2019.3.15>

Kazari