書評


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[良書]三輪裕範(1999)「ニューヨーク・タイムズ物語」中公新書 1507

 あまり期待してなかったのですが、なかなか良い本です。今でも日本の新聞批判として該当する事柄が多々書かれています。

 まぁ日本の新聞の欠点はその通りだと思います。しかし、面白かったのはそうした指摘よりも、取り上げられている記事自体です。記事の選択が良いなぁと思いました。一読の価値があります。

 指摘されていた欠点として、第一に、日本の新聞は事実の公正な報道よりも自分が主役になろうとし過ぎていること、第二に、特に企業合併の報道に関して、ステレオタイプの一方的な業界再編を訴える記事の多いことを指摘しています。

 企業合併に関しては、具体例の記事が面白いです。第一の点に関しては、真珠湾攻撃50年目の年にアメリカの日本たたきが有名な議員に取材に行き、50周年に当たり、「どのような日本への嫌がらせを考えているか?」という質問をして、不要な外交摩擦を煽っていることを指摘しています。

 外交に限らず、日本の新聞は主要な大手が煽りを行い過ぎていて、ゴシップ紙になりたいのかなぁと思うことがあります。

 書かれていない日本の新聞の欠点をもう2つ指摘しておきたいと思います。企業合併に関しては、このほかに、特に日経新聞や読売系で多いのですが、各社の広告主の不利益となる合併を事前に知った場合、スクープとして報道し、合併つぶしを図ることがよく見られます。正直言って、公正取引委員会や検察がそうした報道に対しては、利益供与や営業妨害といった違法行為にあたる可能性が高いので、市場取引を円滑にするために調査した方がいいと思いますが、十分な役割を果たしていません。

 日銀と大蔵省のバブルたたきの主役争いの報道もすでに別の書評で指摘した通り、同様のケースに相当します。今後、こうした煽り報道をどのように防ぎ、経済や金融システムの危機の際に、報道の自由を一定程度確保しつつ、難局を乗り切るのか議論が必要と思います。

 警察などの誘拐事件の際には、生命に関わることから、報道規制が正当化されます。そうであるなら、国難や税金投入が多額及ぶ事態に関しては、同様に報道規制が正当化できるはずです。国民の財産の保存は生命に関わることもあるのですから。  第二は、門外漢なので事実か否かは分かりませんが、IT関係の専門家が、ある事件の際に、共同通信社が犯人と思われる個人のネット情報をハッキングにより情報を得て、報道したことに警鐘を鳴らし、その分野では大きな話題になったことがあります。

 共同通信社は、いち報道機関にすぎないのだから、CIAのような諜報機関の真似事やハッキングといった犯罪行為は慎むべきです。日本の報道や地方政府は時に、法律的根拠もなく警察のような調査権を発動することがあります。違法行為なんですが、議員を通じて抗議でもしない限り、謝罪すらしないんだよね。

 典型的には図書館で返却した資料を、後日、問い合わせとか称して、「そちらにありませんかとか」と言って冤罪かけてくることがあります。返却したんだからあるわけないじゃん。この問い合わせの行動は具体的に3つの法令に違反しています。図書館自由の原則に違反、個人情報保護法に違反、図書館員には委託職員含めて調査権はないので、公務員法違反とまぁすごい数の違法行為なんですが、抗議して個人情報保護法違反だけ認める程度なので、日本の地方政府はとても低質で傲慢です。

 最終章の「ユダヤ人性」の議論は蛇足ですね。結局、経済の見方自体がユダヤ的な部分が多分にあるので、ニューヨーク・タイムズの経済記事を読んでいた当時、ユダヤ人性を薄める努力があったように思えなかったです。まぁあまり努力しなくなった90年代に私は読んでいたので。。。実しやかに当時、Jew-York Timesと言われてたし。。。

<2019.3.20>

Kazari