書評


書籍選択に戻る

[普通]藤田紘一郎(1999)「笑うカイチュウ」講談社文庫 ふ47-1

 よく衛生仮説の本として紹介されることが多いが、その点に触れられたのは、ほんのわずかである。そのような解説本はミスリードが過ぎる。実際の内容の大半は、人間由来でない寄生虫は恐ろしいということが長々と書かれている。イヌカイチュウやネコカイチュウの恐ろしさが大半。そして国際的に人が移動する世界となった日本の大学において、寄生虫学をしっかり研究対象にしとかないと危ないという警鐘を鳴らしている。

 衛生仮説に触れた箇所以外は、よくできた本である。衛生仮説には説得力がない。例えば、花粉症は、日本政府の杉植林した地域と一致しているし、杉でも自然林と、人工的な杉林では影響は異なるだろう。大量の化学物質が一挙に体内に取り込まれようとする時に、アレルギー反応を起こして体外に排出しようとする行為は、どう考えても正常な免疫システムとしか言いようがない。もし寄生虫対応で、それが阻害されているのをよしとするのは、未知の大量の物質は常に安全と仮定した時にしか通用しない考えである。もし不衛生の時にアレルギーがないのがよいとして、その不衛生の時代は平均余命が高かったのだろうか。答えは否だ。

 もし未知の大量の有害物質を取り込む機会に遭遇したら、寄生虫対応のせいで免疫システムが働かないのなら、簡単に死に至るということを衛生仮説は意味しているだけだろう。

 たいていは無害なものだろうから、未知の異質物の大量摂取に寛容な免疫システムがいいのだという衛生仮説は、考え自体が異様で気持ち悪い。

 最近、寄生虫研究者のドラマで衛生仮説がまた宣伝されていて、気持ち悪かった。いい加減、謬説を温存して、花粉症の原因である日本政府の林業政策の失敗の責任を曖昧にしようと試みるのは、やめるべきだ。

<2019.3.30>

Kazari