時事批評

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菅直人と財務省

 首相になってから、市民派の面影は完全になくなってしまった。そういえば、国会答弁で、自分の立場が変われば、過去に自分が良いとして目指していた政策への変更も可能だという趣旨の発言をして物議をかもしました。最近、菅直人の非常識な変節は数多いが、小沢批判が好物なマスメディア・経団連連合は、菅直人の変節振りには穏便になってきている。

 第三者として見ていると、菅直人首相と仙谷由人大臣は口先だけで、まったく財務省のいいなりと化しており、機能していない。菅直人が財務大臣当初、経済音痴を救ってもらった恩義があるのか知らんが、そんな私的な事柄で、一国の大事となるマニュフェスト上の公約や政策を変更してよいわけないだろう。財源としても本来、市民派ならば消費税ではなく、まず所得税の累進化で対応すべき問題なのではないか。本当にマルサが機能するというのなら、累進化すれば税収はあがる。合法的脱税措置が多すぎるか、徴税官の能力が低いから、税収の上昇が限られてくるのである。この辺はケインズの戦費調達論を見れば具体的に挙国一致の際に必要な財源調達の方法が書かれている。今日でも有効な議論が多い。挙国一致の対応を取る必要があるという理屈としては、マスメディア・経団連連合が100年に一度の大不況を訴えているのだから、それを逆手にとって、それじゃ戦争に望むような対応をしなければならないとやり込めればよいわけである。

 それから、天下り先での高給を維持したい財務省の高級官僚にとって、所得税の累進化と節税措置の撤廃を推す声は大幅に過小評価されていると考えるべきである。ケインズですら、不況期にはデフレで失業は社会的にコストが高すぎて、インフレの方が望ましいと明確に述べている。所得税の累進税率の上昇による徴税も望ましいと考えている。

 また、累進性が極めて緩い高額医療負担は、所得や資産に応じた制度に改めるべきだ。巨万の資産をもちながら、所得がない(あるいは源泉分離課税による大幅な所得がある)単身の世帯の病人というだけで、最低金額の保険料ですむ制度は、国民皆保険制度を破綻させたい意図があるとしか思えない。日本の国民皆保険の破綻は、アメリカ保険業界の要望かもしれないが、アメリカの医療保険や学資ローンの悲惨さは、映画「Sicko」や堤未果「ルポ 貧困大国アメリカI,II」岩波書店などでも既に明らかとなっている事柄だろう。

 日本の為替が投機にあっているような危急の時に、「Too late too small」な対策しか取らない菅直人の経済政策には不信感しかない。米国の状況を鑑みても、若手の人材育成に失敗している以上、日本と同じ10〜20年不況となる公算も高くなってきた。こんな時にアメリカにお付き合いしても、しょうがないだろう。小沢と選挙している場合ではないし、アメリカのFRB議長がバーナンキなだけに、日本の財務省が日銀券の増刷を行ったとしても、アメリカから際立った拒絶反応が起こりにくい状況下にあるのに、なぜそのような対策も模索しないのだろうか。

 日銀には紙幣印刷の権限はない。財務省の権限である紙幣の印刷(国会の承認は必要)は、もちろん国の借金帳消しが目的であれば、諸外国からも反発を受けるだろうが、日本の国債の購入者はほとんど国内に限られていることもあって、この点でも反発は受けにくい。これだけ好条件が重なって円高、しかもデフレなのに、財務省が手を拱いているのは、すでに日本の財務省の責任能力は破綻しているのではないだろうかと危惧せざるを得ない。こんな事だからOBごときに80円になっても為替介入しないなどと放言されるのであろう。

 内外に舐められて、財務省は恥ずかしくないのかね。

 ついでに自民党時代のエコ・ポイント制度はたんなる家電業界へのばら撒きにしかならないことを指摘しておこう。本来なら価格を低下させないと売れない製品を価格据え置きのまま売れるということは、消費者が商品券分だけ得をしたことを意味しない。制度がなければ、低下したであろう価格分はもともと制度がなくても消費者が得られた部分に相当する。だからエコポイントの消費者に対する経済効果自体が限られている。それにこうした制度は本来ならどの程度、消費動向に合わせて企業が価格低下させたか、分からなくなるため、その意味でも政策としてよろしくない。さらに価格スライドでポイントを上乗せさせているので、純粋に一律的なばら撒きに近づけた制度になっている。低所得層に手厚くなっていない。本来、景気の悪い時は、所得の低い層に限定するものである。それは、生活の破綻を防ぐ効果も、失業の痛みを緩和する効果もあり、社会的に望ましいからだ。それに、所得水準の低い層の方が、貯蓄率が低いために、いわゆる乗数効果も大きいと知られている。この経験則はかなり強固であるため、景気の悪い時には、一律に補助金をばらまくよりも、低所得層に集中させた方が景気の回復効果が高いと考えられている。低額所得者より高額所得者にばら撒いた方がGDPの内訳の消費が増えるとか、マクロの乗数効果があがるという実証研究は見たことがないし、今後も観測されることはないだろう。

 さらにエコ・ポイント制度や住宅減税は、高額所得層へより手厚い補助金にほかならない。資産を十分にもっていないと家電品や住宅などの耐久消費財に手が出ないためである。景気対策として行うべき性質の政策ではない。子ども手当ても景気対策としては失格である。もし、景気対策として掲げているのなら、子ども手当ても廃止して、真面目に社会保障制度の改正を行えばよい。そのためには高額医療負担も、所得・資産による累進化を高める必要がある。大資産家にだけ、資産を確保しながら生命を確保する制度の必要性があるとは思えない。それに高所得層の方が、病気になりやすい生活をしていることを忘れてはならない。この辺も最近のマスメディアは情報操作をさかんに行っていて、気持ちが悪い。

 小沢一郎が首相になるなら、期待したいのは経済政策である。財務大臣に亀井静香を起用してほしい。かれは郵政担当の時に高額所得者の公表を行った。「それだけの仕事をしていると誇ればいい」という趣旨の発言を聞き、役人の抵抗を押し切って決めた政策だけに、久々に気骨のある政治家の発言を聞いた。彼は政治家としても有能であるし、経済政策もよく分かっている。それに人を喰った話し方が良い。僕は話すのが下手だからといいながら、相手が言い過ぎるとすかさず、(そこまで言うならと)マスコミが嫌がる正論をずばっと言ってのける。何回かマスコミが失敗した後、政治記者や司会の亀井大臣への質問内容が極めて穏便になった。亀井静香のマスコミを舐め切った態度は痛快であった。生放送でこういう事ができる現役の政治家は今のところ彼くらいだろう。

<2010.9.1記>

Kazari