時事批評

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国民を犠牲にする厚生労働省の暫定基準容認

 厚生労働省によれば、暫定基準を容認する理由として、国にふたつの基準があるのはおかしいからだそうである。

 さて、WHOという国際機関とICRPという国際機関が定める規制基準は異なる。大きく国際社会がひとつの組織とみるなら、二重基準に相当する。

 それにICRP内の基準と比較しても、矛盾することは既に指摘した。具体的に数値を書いたICRPの報告書を確認できていないが、WHOの飲料水ガイドラインによれば、WHOの規制基準の10倍がICRPの飲料水基準とある。再括すると飲料水の規制値は、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90はWHO基準で10Bq/Lだから、ICRP基準で100Bq/Lのはずである。ウランはWHO:1Bq/Lだから、ICRP:10Bq/L、プルトニウムはWHO:0.1Bq/Lだから、ICRP:1Bq/Lとなる。一方、暫定基準は、榎田とかいう原子力推進派学者が「国際放射線防護委員会(ICRP)のALI(年摂取限度)の考え方と計算を元に、政府がさらに100倍から1000倍厳しく設定したもの」と言っているが問題外である。実際に、暫定基準(飲料水)はヨウ素131で300Bq/Kg、セシウムで200Bq/Kg、ウラン20Bq/Kg、プルトニウム1Bq/Kgと元々のICRPの飲料水の規準と矛盾する内容となっている。

 一般に年摂取限度とか平均消費量とか入れると、規制基準は数百から数千倍に緩くなるからおかしなことになる。ICRPの飲料水の基準と比較して、今回の飲料水の暫定基準では、ヨウ素は3倍、セシウムは2倍、ウランは2倍、プルトニウムは1倍と出鱈目な関係になっている。

 また食用に関しては、更におかしな関係、二重基準が見て取れる。暫定基準の間でも矛盾が生じる。例えば、野菜類のヨウ素131の暫定基準は、2000Bq/Kgである。この暫定値ぎりぎりの野菜を生野菜から家庭で野菜ジュースにして飲用すると、ほぼ2000Bq/Lとなるのだから、飲用水の暫定基準300Bq/Kgより、6.6倍になる。もともとのICRPの規準より19.8倍、WHO規準より200倍緩い規制値である。

 放射性セシウムを含む野菜の暫定基準は、500Bq/Kgである。この暫定値ぎりぎりの野菜を生野菜から家庭で野菜ジュースにして飲用すると、ほぼ500Bq/Lとなるのだから、放射性セシウムを含む飲料水の暫定基準の2.5倍、ICRPのもともとの飲用水の規制基準の5倍、WHO規制規準の50倍緩い規制値となっている。

 放射性ウランを含む野菜の暫定基準は100Bq/Kgである。この暫定値ぎりぎりの野菜を生野菜から家庭で野菜ジュースにして飲用すると、ほぼ100Bq/Lとなるのだから、放射性ウランを含む飲料水の暫定基準の5倍、ICRPのもともとの飲用水の規制基準の10倍、WHO規制規準の100倍緩い規制値となっている。

 おかしいのは、野菜で食べた時の規制値と、野菜ジュースにして飲用した時の規制値に整合性がない点にある。私ならば、こちらを二重基準と呼ぶ。野菜ジュース生産者が安全とされる規制値ギリギリの野菜だけから、野菜ジュースを作ると、ICRPの飲料水の規制基準はおろか、今回の日本の飲料水の暫定基準すら満たせないのは問題が多い。より緩い方に安全基準を合わせるというのも論外であろう。

 今回の決定を受けて野菜ジュース生産者の農協は利害関係が濃厚だから動けないかもしれないが、カゴメなどは倒産の危機に陥ることも考慮に入れて、政府に抗議した方がいい。濃縮還元などの製法で野菜ジュースを作っていれば、国内の安全な(規制値をぎりぎり超えない)野菜から、規制値を超える野菜ジュースとなることが十分考えられる。私なら、今回の暫定基準の容認決定を受けて、野菜ジュースは原材料の産地、用いた水の産地も表示されていないので、20年は飲めなくなるし、これを機に東北の野菜も食べなくなるだろう。そもそも年摂取限度とかの概念を入れて操作することは、飲料水をすべて、生野菜から作る野菜ジュースを愛飲するような人を例外として、はじくことを前提にしているのと同じである。通常の生活で問題のない行為を、規制基準値の設定を通じて、人種差別的に扱うことは慎むべきである。

<2011.4.3記>ファイル管理が面倒なため、ファイルの日付は一日後

 浄水場でも東京だけは20Bq/L未満なら不検出と表示するって、・・・都知事の策略か。一番影響の出ない空気中の放射線量だけ渋谷で公開って選挙対策かよ。まったく。

※自宅pH試薬液の水道水検査結果

2011年3月17日pH6.7、19日pH6.6、20日pH6.6、21日pH6.7、22日pH6.6、24日pH6.4、25日pH6.7、28日pH6.8、30日pH6.7、31日pH6.5、4月1日pH6.6、4月3日pH6.8、4月5日pH6.8、4月7日pH6.7。

<2011.4.7追記>

 別件を調べていたら、チェルノブイリ事故に際して作成された放射能汚染食料に対して日本の食品輸入の規制基準が370Bq/Kgと書いている記事があった。wikipediaに根拠となる出所(厚生労働省の資料)が示されており、基準値としてセシウム134+137の合計が370Bq/Kg未満と定めている。日本の暫定基準はセシウムの国内の食品に対する規制の方が500Bq/Kgと緩いから、(飲料水は日本の国内水準の方が200Bq/Kgと厳しいので問題ないが)、日本国内より海外の食品に厳しい規制を設けていることになり、明確にWTOの貿易の最恵国待遇という一般原則に違反することになる。他国がWTOに提訴すれば日本は確実に負けるから、自由貿易を促進する立場の民主党政府にとって今回の決定は、国益を損なうものとなっている。官僚が民主党政府をなめている証拠でもあろう。経済産業省がTPPを推し進めようとしているなか、厚生労働省の一委員会ごときが、外務省と経済産業省とは反対に舵をきったことにもなり、緊急事態とはいえ、このような醜態はさらすべきではない。これは重大な官僚の失態である。

 今回の厚生労働省の暫定基準は、海外に対する食品と国内に対する食品との二重基準となっており、暫定基準を定めた根拠とされる国内の二重基準を避けること自体ができていない。嘘の説明で審議をないがしろにしたのは明白であり、外交上の損失をもたらす失態を演じたのだから、審議会でお金をもらった専門家はすべて返金して解散し、今回とは異なる委員によって審議会を再結成し、しっかりとした議論を行うべきである。

<2011.4.18追記>

 メモ代わりに書いておこう。4.18追記したあと、5-6月になってから、マスメディアを通じて、官僚がTPPは先送りと事後的に情報操作するようになりました。官僚の失態じゃないと言いたいのでしょう。でもばれてます、その黒い腹。

<2011.7.19追記>

Kazari