生活保護問題で垣間見える日本の政治の低質性
片山さつきが招く国会の空転
まず、この生活保護の社会問題は、すでに先進国でさまざま実際の政策が実施され、結論として分かっていることがたくさんある。「自助努力」を屁理屈として、社会保障を打ち切りたい勢力が、たびたび不正受給の問題を誇大宣伝してきた。しかし、現実には、生活保護を受けられずに、毎年、自殺者が3万人を上回る状態が14年も続いている。日本の人口規模からみれば、2万人程度(それでもOECD諸国で見れば高い)だった自殺者が、毎年1万人余計に死亡してもなお自殺しなければならない人を減らせないのだから、生活保護は自殺防止に役立っていないし、自殺統計だけから推計しても1万人程度には確実に届いていない。実際には、捕捉率がもっと大幅に低いことが知られているので、次長課長をはじめとする不正受給者が1万人程度いたところで、生活保護財源が不足している現状に変わりはない。不正受給者がゼロでも財源不足なのである。
日本のマスメディアや片山さつきの一議員ごときに、どのような権利があって、生活保護を厳しくして、自殺者を増やすような社会実験を推進する論調を貼るのか、私には到底理解できない。
ヨーロッパの事例
イギリスは福祉国家と言われ、失業者には、失業前所得をベースにその8割とかを失業手当にするなどが行われた。その結果、就労意欲に乏しく、失業給付期間中は、失業しっぱなしなどの状態となり、就労調査は厳しくなった。一方、生活保護に関しては、ヨーロッパ各国で査察する側の嫌がらせが激しく、結局、人権問題になった。多くのヨーロッパ諸国では(成文法であれ不文法であれ)、憲法で基本的人権を認めているので、社会的生活権として、生活保護にまつわる所得・親族調査などは廃止された。
それを30年くらい前の議論を蒸し返して、所得親族調査をしようというのが、片山さつき議員らの考えらしい。警察国家化させても、貧困問題は解決しない。現に、自殺者防止に警察は何の役にも立っていない。統計を取っているだけだ。
ヨーロッパの事例で歴史的にわかっていること
扶養親族調査
意味がないことは分かっている。不正受給するような輩は、必要とあらば、自分の親の戸籍末梢まで行う連中だからである。現に、自分の親を特定養護施設に「姥捨て」するために、単身老人世帯化する目的で、戸籍外しをする高額所得・大資産家が多々いることを私は知っている。そして官庁の人間を中心にこのような国賊が多いから、この部分の厳罰化や法制化が進まない。さらに言うなら、医療絡みの方が圧倒的に金がかかる。それを広く薄く国民健康保険の人頭割に上乗せさせているから、大量の国民健康保険の非加入者を生み出しているわけだが、マスゴミは一向に報じようとしない。きっとマスコミの上層部にも同じような輩が多いのだと思う。それに比べれば、生活保護の予算など小さいものだ。
所得調査
これも意味がない。生活保護世帯の人の友人も異性であれば、恋人と疑われ、扶養者がいるのではと様々な人権侵害行為が行われた結果、ヨーロッパでは廃止に向かった歴史的経緯がある。どのように調査したところで、この辺の微妙な問題を査察すること自体に意味がない。
問題の本質は生活保護から抜け出すこと
日本の生活保護制度は、少しでも就労すれば打ち切りになるなど、就労意欲を削ぐ設計になっている。それを改めないのは制度に効果がないと言って、廃止したい思惑でもあるのだろうという理由くらいしか思い当たらない。ヨーロッパをはじめ諸外国ではとっくにそんな惨状から抜け出して制度改革が行われているからでもある。だから、生活保護制度は就労を推進するよう設計されていなければならない。日本のように、就労したら即座に打ち切るものであってはならないのである。ヨーロッパをはじめ多くの先進国では、就労支援の方に力を入れるようになった。そして就労支援しても一定期間生活保護を続ける措置をとる国も多い。最低でも、手取り所得額よりは減額幅を小さくする措置が取られており、どれも現在の日本の生活保護予算を増大させないと実施できない政策になる。
扶養を促進するためには
日本の所得税の扶養控除を廃止前より大きいものに改めればよい。これを打ち切ったのも、高額所得者や大資産家が、自分の親の面倒を見たくないから、このような制度がなければ、面倒を見る必要がなくなると思ったのだろう。低所得層ほど親の面倒を真面目に見て、同居親族にする傾向があるので、結果として、低所得層により税負担を重くし、高所得層に税負担を軽くする措置になった。小泉政権は国民(といっても小泉の言う国民は低所得者層にあたるらしい)は痛みに耐えるべきと言っていたから、「税の簡素化」を建前に、より低所得層に税負担を重くする構造を本気で作りたかったのかもしれない。しかし、こんな事ばかりやっているから、自殺者が減らないんだよなぁ。もういい加減マスメディアもデマを流すのは止めなさい。
<2012.6.3>
生活保護問題に付随するマスゴミの情報操作
この手の問題がニュースになると、馬鹿のひとつ覚えのように、ホームレスが比較的裕福だというイメージを植え付けようとする報道が行われる。進歩がねぇなぁ、幼稚園児かよ。
<2012.6.5>
生活保護問題に関する東京新聞の記事
ここに書いた後に、いくつかまともな部類の記事も出た。25面辺りに掲載されることが多い「本音のコラム」で、6.5に鎌田慧が、6.10に山口二郎が生活保護問題について正論を述べている。このコラムを鎌田慧や山口二郎が担当する時は、東京新聞でも数少ない良質な紙面になるので、読んでみるといいだろう。この二人には劣るが、佐藤勝、たまに井形慶子が良い記事を書くことがある。その一方で、とても低質なものしか書けないのが竹田茂夫で、読むだけ時間の無駄なことが多い。
<2012.6.11>
TVタックル3時間SPで、悪質な放送
まず生活保護専門家というのが、非常に知識が浅いのとこの時の共産党の発言が適格でなかったのでコメントしておこう。生活保護制度は最後の砦であるから、もしこれが機能せずに自殺者が増えるような現状があれば、国家の恥である。生活保護の専門家としての最低限度の理解といえるが、バブル崩壊後14年連続3万人台の自殺者を出している日本で、生活保護が予算も十分で機能していると捉えるなら阿保である。また、210万の生活保護者が現在いたとしても、2年くらい前に急速に増えたとしても、2年前の捕捉率(生活保護受給要件を満たしていて実際に受給している人)が10人に1人とか、せいぜい4割程度と見られているのに、130億くらいの不正受給金額で、予算が足りているはずはない。馬鹿も休み休みに言ってほしいものだ。生活保護13万x12か月で156万円として、130億を割っても、たったの8333人。1万人にも満たない。
また、低福祉国家アメリカと高福祉国から低福祉へ移行中のイギリスだけを、事例にあげるのも公正ではない。今回のテレビタックルは、岸が出ていた原発問題も低質だったし、生活保護についても、すべてがナンセンスだった。生活保護問題の基本は、予算の大幅な不足、就業と同時に打ち切る現状の制度などにある。もちろん、20年間、サラリーマンの給与が減額し続けていることや、ワーキング・プーアになるしかないような現状も問題がある。民主党議員が生活保護か失業かの2択になっているとデマを述べていたが、貧困層の現状は、働くも地獄、働かざるも地獄なのである。就労しても生活保護以上に稼げないなら、生活保護をもらう側に問題があるのではなく、そのような雇用しか創出できない経営者側に問題がある。
いずれにせよ、日本の現状の制度、経済状況に対するきちんとした解説もなかった。笹川自民党議員が、「日本人の恥の文化が消えたから不正受給が増えた」という暴論を述べていたのが、特に異様だった。競艇のお金でぬくぬくと育った2世議員で、ボンボンの笹川だけが恥の文化を失っているのだ。日本に恥の文化が根強く残っているから、2-3回生活保護の窓口で支給を断られて絶望して、死亡する自殺者が3万人台から14年間もの間、減らせないのである。共産党の人は、生活保護は「権利」であると主張していた。その事は間違いないが、それでも反論としては、笹川の言う「恥の文化」のせいで、セーフティネットの最後の砦である生活保護が機能せずに、14年間もの間、自殺者が3万人台に高止まりしていることを言うべきなのだ。
それからこういうことも言える。犯罪者がいるからと言って一律に制度を厳しくすればいいのかと。それなら、株のインサイダー取引があるので、一律に株式売買規則を厳しくするべきだろうか。ひき逃げがいるからと言って、交通規則を一律に厳しくするべきだろうか。答えは明瞭である。制度の一律規則強化ではなく、「現状でも不正受給は罰すればいい」というただそれだけである。
また、自民党と民主党が、生活保護制度に関しては規制強化を言うのも奇妙である。特に小さい政府を礼賛し、規制緩和なら何でもいい自民党議員が、警察国家化の際にだけ、規制強化を主張するのは馬鹿げている。
<2012.7.2>