TPP参加の前提になる議論をきちんとしよう
TPP参加による日本の貿易利益はない
日本経済新聞を中心として、デマが流されているので、注意が必要です。TPP参加によって日本に貿易利益があるという研究を垂れ流す阿呆がいて困りますが、よく内容を見ないで報道するからです。もともとはアメリカ資本のIIEから研究資金をもらい、日本に何のメリットもない貿易利益があることを主張した研究があります。浦田秀次郎ら三人の研究ですが、その後も日本経済研究センター(親会社:日本経済新聞)が同じような変わり映えのしない研究内容を公刊しています。
まず、この貿易利益を測定するモデルですが、CGE(computable general equilibrium)モデルと言います。日本語にすれば、計算可能な一般均衡モデルと呼ばれるもので、主として、GDP統計すらない発展途上国の政策効果を見るモデルとして使用されてきました。その政策効果の提言が役立ったかというと、まるで役立ちませんでした。なぜなら、この均衡から均衡に一瞬で調整される一般均衡モデルでは、調整コストが考慮されていないからです。実際に、自由化政策を実施したら、アフリカ諸国で貿易収支が悪化して債務不履行に陥ったなど、結果は散々でした。
その後少しだけ不完全競争の要素を組み込めるようになったようですが、その後の政策効果の予測性は一向にあがらずに、先進国でならと使われるようになりました。先進国でも、政策効果の予測性は大して実例がないし、その政策効果だけ測ることができないため、低いままと勘定しておいた方が無難な理論モデルです。つまり、この理論モデルによる限り、貿易利益がどうのこうの言ったところで、輸出、輸入ともに、40〜160%くらいずれても不思議でも何でもないので、意味がないモデルです。
そればかりか、実証された日本に貿易利益があがるとされた産業分野が無価値です。貿易利益があるとされた大半は、浦田秀次郎自身も認めてますが、タバコと化粧品です。もちろん、たばこ税を無税にしたらという前提の結果だし、その結果、間接喫煙の増大、就労世代の喫煙による健康被害、それに伴う労働力の低下、国民健康保険の増大などは、一切合財無視しています。化粧品も同様で、規制をなくせば、健康被害が増えるでしょうし、ブランド品には及ばないので、そもそも測定の根拠が疑われる実証結果と判断できます。
このようにTPP参加による日本の貿易利益はありません。それは既に、日本の工業製品の関税率が十分に低いからです。一部の多国籍企業と外資にしか利益がなく、農業だけでなく、中小企業を中心にした産業の空洞化を招くことになるTPPの参加は、どんな利点があるのかをきちんと政府は明示する必要があります。
ようするに、TPP参加は、国内雇用を守るだけの知恵すらない今の無能な大企業の経営者が、海外競争力という幻想で労働者を鞭打つことで自分の無能を隠せるという、特定層の利益しかありません。短期的には大企業に天下れる官僚にも利益があるのか知りませんが、長期的な国力、競争力は確実に落ちていきます。
貿易利益はないので、それ以外のTPP参加による国益を情報開示せよ
野田首相は、TPP参加に意欲があるそうです。論拠を明示してください。国会答弁にあるような「高度に経済統合」云々は幻想ですから、役人の作る原稿丸読みはやめて、実際にどんな国益があるのか、きちんと話すべきです。
専門家や経団連がいくらだらしなくなっても、官僚がその金魚の糞にまでなりさがっても、国の行政の長として、国会審議くらいは真面目にやってくれ。
<2011.9.16>
その後のマスメディアの情報操作があまりに露骨でひどいので、それに関しては、時事批評に書きました。
<2011.10.30>