復興財源は相続税の増税で賄おう
消費税は難しいから所得税でいう怠惰
野田首相が、消費税でなく所得税でと言ったらしい。復興を現役世代だけに課す正当性をぜひ説明していただきたい。また、経済的にも苦しい被災者も負担することが倫理的に問題ないという根拠も教えてほしい。何の論理性や倫理性があるのか一向に見えてこない。役人がこれまでの制度を据え置いてしまえという怠惰なやり方をしたいというのなら分かるが、将来世代に負担を残さないというのなら相続税こそふさわしい。消費税より所得税の方がいいという人には勘違いしている人もいるらしい。所得税でも現役世代の被災者が払うことに変わりはない。税法上、罹災証明があれば免税措置を取るにしても、それが消費税の場合より還付が簡単だとしてもである。生命とかはひとまず考慮対象外にして、経済的損失だけに限定すれば、金持ちの被災者は、貧乏人の被災者より痛みは少ない。だから罹災したからといって、大資産家や高額所得者の罹災者は、ひょっとしたら貧乏な所得税納付者より経済的に十分に豊かかも知れない。復興税の財源を所得税で賄うと、こうした税の逆進性を生じる恐れがある。これは法人税でも同じである。被災した法人をどう扱うのか。被災しても、被災していない企業より余裕のある法人がある場合はどうするのだろうか。罹災の有無にかかわらず、高額相続部分だけに増税すれば、単純な逆進性の問題だけでなく、罹災免除付きの所得税では生じてしまう「罹災しない低所得者から罹災した高所得者への所得移転」という逆進性の問題も生じない。罹災した資産家と同額の資産を持つ罹災しない資産家の不平等は税負担で解決するのではなく、罹災補助を通じて行えばよい。この措置で十分な差がつくはずなので、この問題は小さい。
税源以外の行動を見ても、ボランティアに参加している人は勤労者に限らない。現在失職していても手弁当で駆け付けた人も散見された。高齢者の割合は人口比率に比べ、人的貢献の部分でも低い。野田総理は所得税と言っているのだから、そもそも引退世代の責任は放棄させている。しかしながら、現在の政治への投票権の多さなど鑑みると、これまでの電力行政や災害対策に対する無責任な政治・行政を放置してきた責任は、等しく引退世代にもある。
それから、自民党と公明党も復興財源の増税に消費税を使うのは反対らしい。消費税以外ならいいと言っているので、是非、相続税にしてもらおう。
例えば、相続人が寡婦や子供2人で3千万以下を無税にしたままでも、現行の累進段階を上げるだけでもかなり増収になる。また、こうした制度設計で、資産のない人に過重な負担をかけることもない。子供が成人するまでの期間、十分な資産が残れば、経済的に追い込まれることもない。現状では、何もしなくても、小泉政権時代の負の遺産によって、所得税から各種控除が廃止されたことで増税になる世帯が多く、特に低所得者に重い負担を課しているという問題がある。それに、もし、復興のための相続税の増税で国を捨てる人間がいれば、氏名を公表すればいいじゃない。復興財源基金に相続財産を寄付する場合は、寄付金相当は相続財産からはずす措置も必要だが、制度設計次第で、それほど不満が出る制度にはならない。何でも一般会計に組み込んで無駄使いする達人の財務省の野望を阻止するために、将来的に、この増税分を保持する場合は、目的税化して、すべて日本の「公的学資ローン制度(元日本育英会の学資ローン)の廃止 → 真の奨学金制度の設置」の移行費用に使えばいいと思う。明るい未来のために、将来世代を育てるのは、この世を去る者の使命である。
※この議論は下敷きにケインズの戦費調達論の考えを用いています。戦費の場合、通常の国の予算規模の2か年分くらいの規模をその年に調達する必要があるので、相続税だけでは無理だとケインズは考えてますが、ケインズが生きていたなら、今回の震災規模なら相続税だけで十分と言いそうです。相続税はこれまで減税に減税を重ねてきたので。
国の予算が70兆円。今後5年で必要な復興財源が(なぜかB型肝炎訴訟対策費を含めて)16.2兆円。仮に現在、国の収入が国債を除いても約47兆円。厳密には復興だけではないみたいだが、1年あたり3.5兆円規模の予算ならなら、これまで緩め続けた相続税の累進化で十分まかなえます。
ちなみに相続税増税に反対を党として表明している政党は、自民党、公明党、共産党です。
民主党では岡田克也だけが相続税を増税してもいいと明言している数少ない政治家だが、情報公開に関して外務大臣であれだけ不甲斐なしだったので期待するだけ無駄かも知れない。鳩山もいいんじゃないという感じだったが、生前贈与がねぇ。それに岡田の立場は、自民党の反原発議員、河野太郎と一緒で党内で孤立無援と思われる。そういえば、共同通信が自社の宣伝紙みたいので、河野太郎の文書がウィキリークスに載ったとか出ていたが、河野太郎のブログとは異なる内容が書かれていた。ちなみにこの件についても日本では主要メディアによる報道はゼロだと思う。しかし、河野太郎のweb記事にしても、2011年09月15日「クラスター爆弾とあなたのお金」の記事って、週刊金曜日2011年6月15日(水)22時43分に最終更新された目加田説子・中央大学教授、6月3日号と大して変わんないな。地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)の記事(2011/05/25)が日本語では一番早いみたいだが。JCBLから記事の元になるベルギーの「ネットワーク・フランデーレン(NetwerkVlaanderen)」英語の報告書PDFに辿り着け、原文を見るとクラスター爆弾製造業者は31頁から記載されている。同報告書の記載順に河野太郎のブログの記載を並べ直すと、Alliant Techsystems(米国)、Hanwha(韓国)、Lockheed Martin(米国)、Norinco(中国)、Poongsan(韓国)、Singapore Technologies Engineering(シンガポール)、SPLAV(ロシア)、Textron(米国)の八社になっている。2008年3月30日時点で、クラスター爆弾製造の明白な証拠がある会社というだけで、河野太郎のブログのように書くと、製造業者が「(2011.9.15)現在、この八社のみ」と誤読される恐れがあり、いい記事の書き方と思えない。ちゃんと英語原文で31頁に書いてある製造業者の定義を読んでブログを書いたのかな?大丈夫か、河野太郎の政策秘書?
ついでなんで書いておくと、2008年クラスター爆弾禁止条約(ウェリントン宣言)に署名したのは、wikipediaによれば120か国。すでに条約を批准した国は30カ国、その中に日本も入っている。珍しく早い批准だな。クラスター爆弾製造歴のある国で、ウェリントン宣言に署名していないクラスター爆弾保有国は、アルゼンチン、ブラジル、ロシア、中国、北朝鮮、エジプト、ギリシャ、インド、イラン、イラク、イスラエル、韓国、パキスタン、ポーランド、ルーマニア、シンガポール、トルコ、アメリカ合衆国と18か国に及び、上記の報告書で製造を指摘できたのは5カ国にすぎない。この製造歴リストを見れば、実際の製造業者は、もっと多いことはほぼ確実である。しかも、この条約には(第2条)禁止対象外の定義があり、「それぞれが20キログラムを超えない爆発性子弾を散布または放出するよう設計された通常弾で、それらの爆発性子弾が含まれるもの」(第2条2項)という程度の緩い規制だし、本条約発効後8年以内に保有弾を廃棄すればいいらしい。何だ、8年もゆとりがあるから批准が早いだけか。
<2011.9.17記>
補遺1.命の金銭換算
生命に関しては金銭換算するのが不毛だというのは自明だが、生命保険屋的に考える人が多いので付記しておく。現行の裁判基準に使われる賠償額の保険屋の計算方法は、被害者が生涯獲得するであろう賃金を想定して決定している。宇沢弘文も指摘している事例で考えてみよう。自動車事故で、平均寿命前の年金受給者である無職の高齢者が死亡した場合、社会的には年金分だけ負の所得税が支払われている。もし、前述のような保険屋の基準で言えば、事故の加害者に被害者の平均寿命まで年金分を渡さなければならない。したがって、今の保険屋的な賠償方法は倫理的に間違っている。
実は同じようなバカげた主張をする経済学者は後を絶たない。例えば、ロレンス・サマーズという米国の元財務長官(元ハーバード大学学長)はその一人である。彼は財務長官時代に、汚染物質の排出をともなう産業は発展途上国に移転して、(命の安い発展途上国の人を犠牲にすれば)経済効率がいいと発言して、ブラジルの環境相から抗議されている。サマーズはハーバードの学長時代には「女性の研究者は論理的でないので理系には向かない」という女性差別発言をして学長を首になっている。
補遺2.相続税増税反対論者に対応するための法制
※民主党の会議で、財源には相続税も含めて所得税を減らす方法を検討すべきだという意見が出たそうだ。累進の最高税率90%くらいにすれば、最低の部分をいじらなくても、所得税の増税自体がいらない。以前の試算などから分かっている事柄だ。ニュース報道自体も、「検討しました、でもやりません」という方向に持っていこうとしていて、気持ちが悪い。以前税率を下げた時に木村太郎のような頭の悪いキャスターが、文化財として価値のある家屋すら維持できないとか言っていた。実際には財団法人化などすれば、相続税を緩めなくても対応できたのだが、富裕層がマスメディアの圧力などを利用して、法を改悪したことになる。相続税の反対はこのようにたいした理由がないから、この文化財の事例についてだけ特別措置を法制化すれば問題はないはずだ。相続税が支払えず、現物給付する際に、その現物給付する資産に対して文化財の申請があった場合だけ法制化しておけばよいだろう。例えば、その資産(家屋)が文化財に値するかを文化庁に審査させ、保護の必要が認められれば、その家屋などについては、国立博物館などの所管にして維持管理に努める(ただし災害等により破損した場合は復元するかは国の権限に委ねる)。その維持管理している期間は、遺族が無料で閲覧できるなどの措置を可能にする。それだけで十分である。
なお、相続税の増税は資産課税なので、現在の消費をうながす効果があり、短期的な景気浮揚効果が認められる。
<2011.9.22追記>
やっぱり役立たずだった岡田克也。政府案に相続税がない。野党の反対で引っ込めたという体裁を取った方がまだましだったのに。それに米軍の思いやり予算も3000億円を復興に思いやってもらう事はなぜできないのであろう。10年分なら3兆円である。
<2011.10.1追記>