政策立案

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国民健康保険の改革

 一部、現在の政府による支払い上限のない医療保険を、積立に移行できるかのような幻想を与える経済学者がいることに違和感とともに、怒りを覚える。何らかの病気が、死に至らないパンデミックになった時などは、今回の原子力のように「想定外」とでも言って言い逃れするつもりなのだろう。

 どんな経済モデルでも、医療保険モデルでも、社会的な大きな変化がある時には、既存のモデルでは対応できない。だから、現在の国民皆保険は、毎年の医療費の変化に合わせて、保険額が変わるようになっている。前年度実績に合わせて、健康保険額が値上げされるので、破綻しないと言われる要因になっていた。しかし、年金世代を含めて所得に対して国民健康保険料が増大しすぎると、最低限度の生活が営めないことから、国民皆保険から脱落する国民が出てきた。

 国民皆保険は、所得格差に関わらず、国民の平均余命を同一に保つ最大要因とも言われている。したがって、同じくらい長い人生を楽しむという基本的人権を保障するのが、国民皆保険となっていた。その皆保険の危機的状況をどう手当てすればいいのかというのが議論の根底にあることを強調しておきたい。そうでなければ税金投入を正当化できるはずもない。

 制度が疲弊の度を強めているのは、景気の低迷もあるが、現在、高額医療費を拡充したり、介護保険を始めたせいで、財政状況が急速に悪化したことの方が大きな要因となっている。その根幹には、低中所得者の保険料から高所得者の保険利用を賄う現状があると私は判断しているが、厚生労働省が詳細な統計を公表することがないので、実態が分からない。介護保険についても細かい制度設計をしないと救いようがないので、介護保険に関しては別の機会に論じる。

世帯所得による健康保険料の徴収制度の廃止。個人所得による制度へ変更

 書評や時事批評に書いたが、世帯所得による保険料制度は性善説に基づいて制度設計されたものである。しかし、現在の家庭崩壊や制度悪用によって、単身老齢世帯化を促進させる結果になっていると指摘した。また、真面目に老齢な親を同居して介護しようとする働き手に一番負担を強いる制度になっていのも本末転倒である。同居親族にして、老人の介護に努める世帯の負担は軽いことが望ましい。なぜなら医療費や介護費の抑制に最も貢献しているためでもある。これについても細かい統計をとれば、はっきりした事が分かるだろう。

 こういう制度の悪用は、高級官僚や高額所得者が率先して行っていることを目の当たりにしてきているので、官僚任せや金持ちの学者に期待しても、制度改革案としては出てこない。非常にけしからんなぁと思うが、マスメディアも勉強しないから、報道されずに一向に改善が見込めない。

地方ごとの実績・保険料設定の廃止 → 国への一元化

 地方自治体の破たんを視座に入れると、業務委託するにしても、制度は一元化して、保険料の全国一律化をすればいいと思う。所得割は、地方ごとに異なる制度になっているが、すべて資産を含むという一元化を行う。都市に不利と言われるが、都市の病院数は非常に多く、質も高く、アクセスも容易だから、所得・資産割に見合うサービスを享受できている。

医師による戸籍外しの禁止

 医師が家族を判別できない老齢者を戸籍からはずす事例を、マスメディアが丹念に取材すれば、その周辺者の多くが、身寄りのない単身老齢世帯の扱いにして特養ホームにぶち込むために、大資産家が制度を悪用している事例にたどり着けるだろう。

看護師などの報酬単価の引き上げと藥価の引き下げ

 基本的に医療費を抑制することは必要であるが、それは労働費用に求めるよりは、それ以外に求めるべきである。担い手不足の解消のためにも、看護師などの医師を支える人の生活を安定化させることは必要である。逆に言えば、ここが安定すれば、医師の負担も軽くなるはずで、そうすれば、医師の高額部分はある程度抑制されるかもしれない。藥価はジェネリックを中心に一段の引き下げが望ましい。製薬会社の利益はこの不景気にも十分な状況が続いている。

県立病院の国立化

 国家公務員として医師を雇う。国立病院勤務医師は医療事故保険に強制加入させる一方、給与は民間より安めにする。特別の違法行為がない限り、終身雇用とする。国立病院の難点は設備の老朽化にある。国立病院の設備強化と費用の抑制は、全国一斉に設備の競争入札をすることで可能なはずである。また大学との提携も模索すべき課題である。医師養成ロボットの共同研究などなど。国立大学と国立病院が共同で医療用具を開発改良した場合、国立病院での使用の特許料の免除など制度化すれば、将来の医療費抑制に役立つ。医療養成ロボットは医療を高質に保つのに役立つだろう。

高額医療費制度の改正

 現在はすべての人が制度活用できるが、低所得かつ低資産者のみが利用できる制度に改める。所得・資産を把握するためには、国民背番号制が望ましく、警察権力が通常アクセス不能な国民背番号制の導入も合わせて提案する。最低限度の生活が営めないほどの高額医療費には、生活保護で対応する。

 なぜこのように改めるべきかというと様々な高額医療費制度の利用例を知っているからである。例えば、家屋資産を持ち、会社重役である妻が、1年も2年も人工呼吸器により延命されている場合、それを高額医療費制度で救済することにはとても違和感を覚える。その重役が海外旅行を楽しめる生活水準でいられるほどの状態なのに、なぜその医療費を税金投入で賄うのか?特にこの高額医療費は税金で賄うことが制度化されているだけに高額所得者優遇制度と化している。

医師の需給調整

 書評にも書いたが、価格メカニズムを使うと必要な医師への供給は得られない。再掲すると、妊産婦の多くが支払えないほどの高額な出産費用になれば、医師が不足している(供給)状態に合わせて、子供を産まないことにより、産婦人科医に対する需要が減ることで市場均衡する。あるいは自然分娩を自宅で強行したり、嬰児殺しが復活しかねない。現在より更に少子化になれば、健康保険も確実に破綻しやすくなるので、市場の価格調整は、医療に関しては百害あって一利もない。

 そこで、現在不足している緊急医療医師および産婦人科医に対して、政府による医療裁判に備えた職業保険を用意することで医師の増大をはかる。それでも不足するようなら、各県に重点病院として、国立病院を設立し、国家登用による安定雇用により、人材育成を図る。一方、不正請求の多い(過剰供給の状態にある)歯科医の国民健康保険への請求の査定を厳しくして、違法請求には医師免除はく奪で対応する制度を設ける。医師総数の規制は廃止する。高額所得の医師は競争に任せる。

<2011.11.30>

Kazari