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オリンピック雑感

 一番感銘を受けたのは、バドミントンの佐々木翔(1982年生まれ)選手である。世界ランキング1位の中国の林丹選手に、1-2(12-21、21-16、16-21)と惜しくも負けたが、試合内容はとても良かった。ロンドン・オリンピックは優勝が中国の林丹(Lin Dan)選手、銀メダルはマレーシアのChon Wei Lee選手、銅メダルは中国のシン龍(Chen Long)選手だった。

 もうひとつ感銘を受けたのは女子バレー。2012年7月9日時点の世界ランキング第3位の中国を下して、日本(世界ランキング第5位)は銅メダルを獲得した。実力差を補う戦略などは本当にすばらしい。女子の3位中国187ポイント、4位イタリア183.75ポイント、5位日本177.25ポイントは微差であるが、他のスポーツも見習うべきだろう。ちなみに、1位アメリカ245ポイント、2位ブラジル217.5ポイント、6位ドイツ119.25ポイントとなっている。女子バレーのロンドン・オリンピックの結果は、金メダルがブラジル、銀メダルがアメリカとなっている。

 今回から日本のオリンピック強化予算を、オリンピックでの実績に応じて傾斜配分すると聞いたが、本当なら失敗すると思う。まだオリンピックでの実績は皆無であるが、若いスポーツ選手に対して、オリンピック以前の成績に応じて特別に強化する予算を十分に確保した上で、余った予算の傾斜配分とかなら、ともかくもとういう感じだ。結果を出した後にその競技を強化するというのは本末転倒しているし、単にお役人の事なかれ主義というか、無責任主義の結果に過ぎない。実績のないスポーツ分野の若手育成が永遠にできない構造を導入するに等しく、新規事業に障壁を設けるようなものだ。これは、公共事業で大手建設会社に丸投げする時の、役人の責任転嫁と同じである。大手優遇措置と同じで自民党・公明党を筆頭に、こんな事ばかりしているから、日本で新しい事業が成長できずに停滞するのである。

 日経新聞のいい加減な統計によるメダル獲得の効率性などはとても下らない。例えばドイツと日本と韓国を見れば明快だ。人口(「世界の人口推計2011」)は日本が約1億2000万人、ドイツ約8000万人、韓国約4800万人である。GDP規模(2010年)では、日本5兆4884億ドル(世界3位)、ドイツ3兆3058億ドル(世界4位)、韓国1兆148億ドルである。ロンドンオリンピックにおける金メダル獲得数は、韓国13、ドイツ11、日本7。総メダル獲得数は、ドイツ44、日本38、韓国28と、国全体で比較すればドイツに対しても、韓国に対しても完全に見劣りする結果である。

柔道

 金メダルは女子57キロ級の松本薫一人に終わったのは寂しいが、松本薫選手は全試合ともすばらしかった。特に決勝、最後、審判に向かってぼそっとつぶやいた「反則」はすばらしいアピールだと思う。特に誤審が乱れ飛んだ大会では必要なアピールであった。男子は全般的にぐだぐだ。審判に関しては、柔道の場合、ビデオ判定には主審も加われるようなフェンシング形式が良いのではないかと思う。武道の精神からすれば、チャレンジ制度はなじまないが、これだけ一本技が少なくなり、形式化が進んだスポーツになったら、チャレンジ制度を導入してもいい段階かもという気もしてきている。同じ武道からスポーツ化したフェンシングとの共通項は多いように思う。

 女子柔道の中国選手の一人は関節を決めたまま体重を浴びせたり、相手選手の選手生命に影響しかねない粗暴な戦術を取っていたが、こういう選手も平和の祭典であるオリンピック競技への参加選手として適格とは思えない。今後は出入り禁止にして欲しい。

サッカー

 女子サッカーは全般的に戦略をまるで感じなかった。システムを一度決めたら、選手交代の順番もほぼ一緒。戦略と言えるのは、交代の時間のタイミングだけではなぁ。もしアメリカに挑戦者として戦うなら、岩淵を前半スタメン起用するくらいの英断があっても良かったと思う。アメリカ戦は、相手のロイド選手ひとりにやられた格好だが、勝てた試合だと思う。決勝前まで、日本は最終のゴール直前のアシストとゴールの精度の高さで勝った試合が多かった。こういう勝ち方は決してほめられたものではない。そういうきわどい勝ち方をするのも実力なのかも知れないが、最後の精度で勝てない試合もあるかもしれないと思って、普通は戦略をもっと練るものだと思う。特に守備の破たんの是正は選手任せではね。

 アメリカ戦以前で、近賀選手が速度負けして抜かれると、極めて危険な局面になった。この点だけは修正されたが、全般的にオリンピックでは、守備がよくない印象が残っている。戦略のなさを批判されたくないが故に、予選抜けの際の「戦略」を強調して、世間を騒がせたのなら、本当に愚の骨頂で、監督は交代した方がいいと思う。女子バレーや女子卓球と大違いだ。

 男子サッカーは、永井謙祐と大津祐樹、清武弘嗣の動きが全般的に良かった。守備の酒井宏樹は速度負けする場面が多く、代表としてどうだったのか疑問が残る試合が多かった気がする。オーバーエイジ枠の吉田麻也はよく頑張っていたと思うが、・・・。韓国戦は見ていないのでよく分からないが、マークされてもそれをかいくぐる動きは大津だけはうまかったと思う。

 平和の祭典にふさわしくない韓国サッカー選手の行動は、今後、コーチ・監督いかなる立場でも国の代表として五輪に関わることを認めない永久追放が適当だろう。

テニス

 錦織圭がよくがんばってベスト8に残ったと思う。フアン・マルティン・デル・ポトロに1セットを取ったものの負けたが、その相手選手が銅メダルを取った。次の大会に期待している。

ボクシング

 村田諒太の金メダルが立派である。

アマチュア・レスリング

 女子の吉田沙保里、伊調馨の三連覇は見事である。

水泳とアーチェリー

 男女とも立派だった。

卓球

 女子は素晴らしかったが、男子はやはりコーチ陣を含めた体制に問題があると思う。といっても世界ランキングで見ても、男子との差は歴然としている。女子は、2012.8.10時点で、石川佳純選手(世界ランク5位)、福原愛選手(世界ランク6位)、平野早矢香(世界ランク23位)となっているのに対し、男子は、水谷隼(世界ランク5位)、丹羽孝希(世界ランク18位)、岸川聖也(世界ランク23位)である。そうはいうものの、日本の女子団体では、女子シンガポールの馮天薇(世界ランク7位)、王越古(世界ランク10位)、リ・ジャウェイ(世界ランク13位)を破っての銀メダルであり、やはり立派である。

 前の世界卓球では取れないタイムを執拗に要請し、イエローカードを受けた間抜けなコーチが抜け、そのコーチが解説者になったようだが、香港に比べ、戦術不足であった。男子団体が敗れた香港は、江天一(世界ランク17位)、唐鵬(世界ランク28位)、梁柱恩(世界ランク37位)で格下相手に負けた。

東京新聞のゴミ記事

 東京新聞によると、資金難にして100点満点を目指さない今回のイギリスの運営が「大人の大会」だそうだ。呆れて物も言いたくなくなるが、4年間、たった一回の大会のために、すべてを傾注する選手の立場を考えれば、そんなふざけた対応は許されるべきではない。開会式や閉会式が低予算で豪華でなく運営されることは問題ないし、エコを考え、競技場の縮小工事が行われやすい構造設計にしたり、競技場そのものを後日別場所に移動しやすい構造物として設計したりした点は称賛に値する。しかし、競技に関わる事柄で「満点を目指さない」ことはあってはならない。例えば、ハンマー投げのような投擲競技で、ハンマーが引っ掛かって取り除くのに普通の国際試合の数倍もの間、試合中断が行われる等は、決してあってはならない事柄である。こんな事は予算云々の問題ではないはずだ。

 東京新聞によると、バドミントンの無気力試合と女子サッカー予選の引き分けを目指す戦略は程度の差に過ぎないらしい。実際試合を見てそう思ったのなら、その記者には新聞記者をやめた方がいい。まず、理屈の上でも、バドミントンは強豪選手同士が、負けを競う試合を行っているのに対して、日本の女子サッカーの場合、勝ちに来ている相手に対して、引き分けを目指して戦った。リーグ抜けとトーナメントの形式上の類似にだけ拘ればそのような浅薄なものの見方になるんだろう。将来的な事を鑑みれば、そのような戦略ができないように、リーグ抜けの結果のトーナメント表の位置が不確定な仕組みにすればいいのは確かだが、粗雑な事をマスコミが言う権利はない。

 また、東京新聞は、誤審減らしのための今回の柔道の運営は間違いであると断定する報道を行っているが、これも愚劣だ。選手側からすれば、公正な審判の方が望ましい。観客としても同様である。主審や副審が人形との批判も載せていたが批判の仕方が的違いだ。柔道の場合、問題なのはビデオ判定に主審や副審が加われないことにある。ビデオ判定を行う競技は多々ある。同じようにマットを使うアマチュア・レスリングなどなど。だから、ビデオ判定に主審が加われるフェンシングのような形式にすればいいだけの話のはずだ。

 新聞、テレビともに今回のオリンピック放送の水準はかなり低レベルで唖然としてしまった。特に選手名の誤字の多さは準備・知識不足が明瞭で、日本のテレビ報道の能力の低さを物語っている。画像とは裏腹に、質がどんどん劣化していくなぁ。

 銀座パレードは都の財政で行うような事ではない。スポーツメーカーが主体になって行うべきことだ。どうも最近は、無能な税金無駄遣いを正当化する阿呆が多くなった。

<2012.8.24>

Kazari