開発経済の専門用語
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- [単語] 意味 記述日
- [CGEモデル] 略語
Computable General Equilibriumモデル 計算可能な一般均衡モデルのこと。
GDP統計すらない発展途上国の政策効果を見るモデルとして開発された。これまで中東、アフリカ地域を中心に政策効果が測定されたが、予測性は皆無と言われている。均衡から均衡に飛ぶこのモデルでは調整費用を考慮できない。実際に貿易自由化政策を真面目に実施した国では、貿易収支が悪化して財政破たんするなど発展戦略への妨害にもなった。
不完全競争を一部盛り込めるようになったが、調整費用を考慮できるわけではなく、十数年前からは貿易自由化の利益を出す先進国モデルと再利用されるようになった。予測精度は改善されていないと考えられている。学者の遊興モデルであると同時に、政治的な道具となっており、開発の立場からは活用意義に乏しい分析道具である。
2011.9.24
- [deregulation] 専門用語
アメリカなどで行われた規制緩和を指すが、当初の意味合いは日本語の規制緩和とは大きく異なる。
アメリカでは殖産興業の一環として、大企業の一部参入規制などとセットで、新興勢力に規制を緩和して市場を開放して、新産業を育てる目的で行った一連の政策を指す。
例えば、AT&Tに使用規制をかけて、軍用の通信衛星の利用を民間会社に提供するといったことが行われた。
アメリカでも当初はそうだったのだが、後のderegulationの中身を見ると、ミニバブルの創出のために使われた節がある。例えば、エネルギー産業と会計の問題など典型的である。
(参考文献)内橋克人[ほか編](1994)「企業活動の監視」岩波書店
2012.9.20
- [Gravityモデル] 専門用語
二国間貿易を説明する時に使われる実証用のモデル。訳せば重力モデルだが、日本語ではあまり使われるのを見たことがない。二国間貿易の貿易額を、物理学のケプラーの法則に見立てて説明変数が選ばれているので、このような名称となっている。
一応、モデルの理論もあるが、こじつけのように受け止められている。被説明変数が二国間貿易の貿易額、説明変数には、首都間の距離(km)、GDP規模などを用いる。説明変数を調整すれば、簡単に自由度修正済み決定係数が0.9程度になり、どんなに惨めな場合でも0.6程度にはなることから、あてはまりのよい実証モデルとして知られている。
政策志向性がなければ実害がない学者の遊興モデルのひとつである。成長モデルも一定期間ごとに流行するモデルであるが、労働の質を含む新しい成長モデルなど、開発政策に悪影響を及ぼさない実証モデルは、CGEモデルのように気にする必要はない。Gravityモデルでも、投資の自由化に悪用される場合は注意が必要である。
2011.9.25
- [Globalization] 造語・流行語
国際化が地球規模で起こる様子を言い表した造語
アメリカのセオドア・レヴィットという経営学者が最初に使ったと言われているそうだ(出所:2004「グローバリゼーションの基礎知識」作品社)。経済学者も流行語のように用いるが、定義などきちんと定めて使用する人はほとんど見られなかった曖昧な専門用語である。Globeから派生した言葉として捉えている人が多い。曖昧で使い勝手がよかったため、瞬く間に広まり、対立語のようなGlocalizationという言葉まで生まれた。こちらは地域化が地球規模で進展することを指しているが、具体的な内容はまちまちである。例えば国内の民芸品が廃業寸前だったが、国外で評価され産業として成立するようになるとかがよく挙げられる。しかし、これらの社会現象は昔からあり、internetなどを通じて、瞬時にブームが起こる程度の差しかないため、この用語を使うのは適切と思えない。前述書では似たような事例で、グローカリゼーションを説明している。後述するように先進国の価値観を強要しすぎるとか、文化弾圧的といった批判を封じるために提唱された概念と思われ、今後は死語になるものと期待している。
GlobalizationもGlocalizationも社会現象を説明するには、含意に乏しい造語である。最近は、経営学に限らず、経済学でも新語作成が学問の発展のように考えている阿呆がそこらかしこに見られるが、そういう悪例のひとつである。
開発経済の現場で、新自由主義の押しつけに使われる時は迷惑な側面もある。例えば、IMFが世界中で財政規律至上主義を振りかざせば、多くの発展途上国の発展戦略がとん挫してしまう。また、規制緩和がグローバル化の象徴のように使われる場合も、同じ弊害がある。先進国自身が手放していない国立大学なども含めて、途上国に教育の自由化を求められても迷惑なだけである。もともとこの言葉の含意に、価値観が地球規模で統一化するという側面があるので、途上国に対する文化弾圧的価値観を含んだ概念である。そのため、新帝国主義と言われても仕方のない部分がある。そうした事情が、1999年WTOのシアトル会議においてNGO団体らが反グローバリゼーション運動などを起こした背景になっている。
前述書も同じであるが、この時のシアトルの様子も日本のメディアはNGO団体らの主張を情報を捻じ曲げて伝えている。そういう情けないニュース特集番組がほとんどであった。
2011.9.26
- [PFI] 略語
Priveate Finance Initiative 民間資金等活用事業のこと
イギリスによって提唱された概念で、開発経済では、先進国の多国籍企業が開発途上国の政府部門に進出するために用いられた。当初は民活資本、民間活力などの用語も使われたが、いずれも新たな帝国主義と言われても仕方のないものである。
世界銀行の報告書などに見られるとおり、途上国におけるPFI事業は貧困の拡大、政治腐敗につながり、ほとんどが失敗であった。例えば、インドの地方政府の上水道事業を、アメリカのコカコーラ社が落札した。それ以前には、地方政府によって貧困層に無料で安全な水が提供されていたが、コカコーラ社はその水を有料化したため、貧困層は安全な水にアクセスできなくなり、更なる困窮にあえぐことになった。多国籍企業から多額の現金が地方政府役人や途上国の政治家に流れたと言われている。アジアを中心に多くのPFI事業が同様であり、途上国で活動するNGO団体から非難されている。
日本国内では、多くの公共事業を大手建設会社に丸投げしていたので、実質的なPFIだったが、国土交通省の官僚が不勉強で事態を把握できず、現在では内閣府に、民間資金等活用事業推進室という無駄な組織がある。
ついでなので書いておくと、開発ODAがらみの事業には、国土交通省と外務省の間で二重外交的になることもあるし、資源エネルギーがらみの事業では、経済産業省と外務省の間で二重外交になることがしばしば見られ、日本の国益を損なっている。自由化交渉の際には、関連省庁(経済産業省、農林水産省、法務省、外務省)をまとめて、外務省が交渉にあたるが、本来なら一時的にでも人員を出し合って、同じ机でチームとして意見をまとめてから交渉した方がいいと思うが、この辺はちゃんと行われていない。それぞれの分野の基本的な知識の共有すら危ぶまれるやっつけ仕事をし過ぎる傾向にあるので、制度としてプロジェクトチームを作るように改めた方がいい。
2011.9.19 誤動作で一度、内容が飛んだため書き直しましたが、バックアップがなかったので文言が変わったかもしれません。9.25再記