計量経済学入門



第2章.データ

 計量経済学は、普通の統計学と異なる大きな特徴があります。「理系(といっても物理学や化学の実験室で実験が行えるような分野)」では単純な統計分析が主になり、計量経済学ほど複雑化しないことが多いですが、それは分析に用いるデータの性質が根本的に異なるためです。
 「理系」では理論が正しいか検証する場合に、その理論が想定する実験環境を整えて、理想に近い形で実験データを取る事ができます。しかし、経済学では、最近の実験経済学のような特殊分野を除けば、普通に政府が調査する経済統計や、研究者が調査するアンケート調査を基に集められたデータを用いて分析します。

 例えば、「理系」で用いる回帰分析は、計量経済学でいう古典的回帰分析だけで十分なことがほとんどです。しかし、経済学の実証分析で回帰分析を行う場合、古典的回帰分析だけで十分な事はほとんどありません。
 経済統計をデータにすると、古典的回帰分析による結果が正しいために必要な理論的仮定を満たせないことが多いためです。
 そのため、経済の実証分析では、「理系」の人でも困惑するような面倒な分析手続や検証をたくさん行わなければならないことになります。

 経済統計には、経済政策の実施のために必要な情報を集めるために収集され、政府の業務から副産物として得られるもの(例えば有効求人倍率)から、独自に調査しなければならないもの(例えば国勢調査や国民所得統計)まで、多岐にわたります。政府の発表する統計は法律の規定があり、統計六法としてまとめられています。したがって、経済の実証分析を行う人は、これらの法律にも精通している必要があります。

 経済統計のデータと「理系」の実験データの差異は、経済の時系列データの場合、特に明確になります。経済に関わる時系列データは、相互に関係し合うために、互いに影響がない(独立している)と考えることはできません。そのため、多くの経済データは、時系列で似たような動きをします。

Kazari