経済学入門




はじめに

 経済学は、社会科学のひとつの分野です。後述しますが、ここ数年で表層的には大きく変化しています。まずは、手頃な教科書(以下、テキスト)を紹介したいのですが、その前にいくつか頭に置いておいた方が良いと思う事があります。

 第一に、どの学問分野であれ、ある学問分野を深く探求していくと、テキストに書かれている内容は極めて限定された世界でしか成立しない事が判明するという事です。専門的な研究を行った経験のある人は分かるでしょうが、抽象的で分からないという方のために、いくつか具体例を示しましょう。

 同じ社会科学の分野から、歴史の例を見てみましょう。私の世代(現在30代)の中学の歴史教科書では、鎌倉時代のはじまりを1192年と記述していました。「いい国作ろう」などの語呂合わせで年代を暗記したものです。しかし、鎌倉幕府の成立とは定義の難しいものです。私は高校時代、日本史の教師から、日本史の学会では、源頼朝が征夷大将軍になった年には実質的に幕府の機能を持っていたという説やその他のいくつかの説が有力で、少なくとも、2〜7年程度早い年に鎌倉時代が幕開けしたと考えられていると教わりました。その時に義務教育に反映されるには定説となるまで20年程度かかる事もよくあるとの事でした。

 別の分野の数学の例を見てみましょう。小学生の教科書で、1+1=2と習います。しかし、この等式が成り立つのは、三進法以上の世界です。その他の式体系を含めると、小学生時代に習う算数は、十進法の世界で成立するものに過ぎません。例えば、二進法では、0、1、10、11、100、101と進みますから、1+1=10です。このような数学の理論は知らなくても、そうした原理を用いて動く道具を皆さんは日常生活で使っています。コンピュータは、電気の周波数を利用して、0と1を判別するので、そのプログラムは二進法が基礎となっています。

 第二に、経済学のテキストに関しては、粗悪なものがかなりあります。社会科学全般の傾向かもしれませんが、科学と付いているものの、厳密な検証が難しく、かつ著者の価値観を反映しているためです。

 最後にケンブリッジで資本に関する論争を行い、その学者の前半で近代経済学に貢献し、後にマルクス経済に傾倒していったJ.Robinsonの言葉「経済学者に騙されるな」を珠玉の言葉として掲げておきます。

Kazari