第3章.経済学で学ぶこと
経済学では、どこまで扱うのがいいのか迷いますが、基礎的なミクロやマクロで学習する内容について特に教科書であまり触れられていない点を中心に書いておきたいと思います。
それから、入門水準で是非読んで欲しいものがあります。Stiglitzの経済学の中に、自動車産業から経済について語った箇所があります。この箇所は特に秀逸ですので、是非、お読みください。経済を学ぶ意味がうまく書かれています。
ある学問を学ぶことは、その学問の専門用語と分析道具(語学で表現すれば単語と文法)を学ぶことです。経済学では、市場など特別の概念を伴う用語がたくさんあります。それらを覚えていきながら、分析道具を学んでいく事になります。幾分かは過去の研究者の名前も覚えなければなりません。異なる立場の考えを、便宜的にその研究者の名で総称したりするためです。
経済学入門レベルの問題で、数学を使うものは簡単に解けます。解けると理解したと勘違いする方もいるので注意が必要です。入門レベルであれ、大学卒業レベルであれ、数学を使う問題には必ず答えがあり、解法を覚えれば、専門用語をまともに理解していなくても解けてしまうものです。特に難しい経済学の概念理解に関しては、文章で正確に書いたり、言えたりしない限り、理解したと思わない方がいいのです。専門用語を理解し、それを文法を間違えずに応用して使えて、はじめて経済学が実用のものとなります。ひどい官庁エコノミストになると、この程度のこともできないのです。
例えば、GDPを「ある一定期間、国内で生産された生産量」と書けば間違いです。親切な統計書には、GDPをGDP(value added)と書いています。GDPのPはProductですが、この単語に惑わされる事なく、付加価値概念ということを忘れずにと丁寧に書いてくれているのです。GDPの正しい定義は「ある一定期間、国内で生産された付加価値の合計額」です。どの統計書をひっくり返しても付加価値であることを明記していないようなものはありません。したがって、予備校講師の書いたようなテキストで、「生産量」と書かれているものは、定義すら調べないで書いている悪書と即断できます。
GDPは国内で生産された付加価値ですから、売上とは異なる概念です。ときどき、ある国のGDPが、大企業、例えばSonyの売上より小さいなどと報道されることがあります。大学でマクロ経済学の講義を受けた方は知っていると思いますが、付加価値と売上を比較することは、まったく意味がありません。例えて言えば、重さと長さを比べているようなものです。
経済学の多くの統計の単位は同一通貨である事が多いため、このような誤りを生じやすく、注意が必要です。しかし、報道に携わる人間が必ずしもこういう事実を知らないわけではなく、世間をあっと言わせようと誤解を招くような誇張表現を使う報道機関も存在するのが現状です。そういった報道機関は、読者はそのような報道を求めていると勝手に解釈して、国民の知る権利を乱用する傾向にあります。逆にいえば、ある程度、経済学が分かるようになると、報道機関の情報操作を見抜けるようになるという利点があります。
経済学に限らない利点ですが、資本主義の世の中では経済に関連する事柄が多いので、詐欺に会わない為にも、経済学に対する理解を深めて損はないでしょう。
その他にも、実生活に役立つ知識はいろいろあります。マクロ経済の物価の変化が理解できるようになれば、経済事象を考える際に、名目額ではなく、実質額で考える事の重要性に気付きます。
また物価の動向がわかれば、金利の変化についてもより深く理解ができるようになります。物価の変化を予測して、購買計画や資産運用の方法について役立てる事もできます。
ミクロ経済では、企業行動への理解が深まれば、自分の所得水準から、財・サービスを購入する際に、財の性質などの条件から、いつ頃、購入するのが合理的と考えられるか理解できるようになります。
会計でも学びますが、企業の投資の減価償却という考えが分かれば、自分の家の耐久消費財に対する耐用年数から、生活水準を下げないためには、生活に必要な耐久消費財に対して積立貯金を行っていないと困ることなど理解できるようになります。